【ギガプライズ社長 梁瀬 泰孝】手堅い「急成長」を実現する

1997年創業のギガプライズは、不動産テック分野、特に集合住宅向けのISP事業で、いま注目の企業だ。スマートフォンの普及を追い風に、新築集合住宅へのデジタルインフラの整備を中心事業として展開する現状とその戦略、そしてプロ経営者としての矜持を、梁瀬泰孝社長に聞いた。(Soysauce Magazine Online編集顧問 松室哲生)

23年前に始まった、集合住宅向けインターネット事業が花開く

松室:集合住宅向けのISP(インターネットサービスプロバイダ)事業が大変好調ですね。
梁瀬:これが我々の本業で、23年前の創業時からのものなんです。お陰様で現在、大変伸びています。
松室:随分早いタイミングで参入だったんですね。
梁瀬:そうなんです。でもこれは、私がすごい訳ではなく、創業者の下津(弘享)さんのお父様がデベロッパー事業をされていて、下津さんご本人は、これからはインターネットの時代だと。それで、まずお父様の会社の物件にインターネットの接続の設備を付けたところから、始まった会社なんです。いま考えると、創業者の目の付け所が大変に良かったのですね。
松室:梁瀬社長は経営に参加されて、何年目でしょうか? ここ数年の業績の伸びは著しいですが。
梁瀬:私は社長になって4年目ですね。ここ数年、急に伸びた要因は、OEM案件が順調に伸びている点にあります。
松室:ISPのOEM案件というのは何でしょうか?
梁瀬:ハウスメーカー様の名前で、弊社のサービスを利用していただいているものです。例えば、大和ハウス工業様なら「D.U-NET」と言うブランドで提供されているインターネットサービスなどが代表例ですね。
松室:ここ数年、集合住宅におけるインターネット利用が急激に増えていますからね。
梁瀬:それはやはり、スマートフォンの普及が大きいと思います。もともとは、自宅でのインターネットの利用と言えばPCだったのですが、よほどのマニアの方でない限り、今はPCを自宅で何時間も使わないですよね。でも、スマホは年収に関わらず「みんな」が使う訳です。ですから、通信料金への目が厳しかったり、つながらないとイライラしたりと、高品質なインフラへのニーズは、幅広くて高いのです。
松室:具体的なサービスのイメージは、どのようなものでしょう?
梁瀬:単身者向けの集合住宅で、WiFiや高速インターネットへのニーズが、爆発的に広がりました。家賃が6万円、8万円といった単身者や二人暮らしの入居者も、当たり前のように、家でインターネットを楽しむようになりました。この層は、戸建てやファミリータイプのマンションと違い、数の面では、大変に大きなマーケットなのです。
松室:では、既存の単身者向けの集合住宅などにも、サービスを展開している?
梁瀬:はい。しかし、現在はボリュームゾーンの新築集合住宅が中心となっています。既存住宅への敷設は、新築に比べ、営業もサービスの提供も、非常に手間がかかってしまうので。今後の課題ではあるのですが・・・。
松室:住宅産業関連と言うと、景気に左右される気がするのですが・・・。
梁瀬:弊社の現段階では、景気にはあまり影響を受けません。それよりも、スマートフォンによるインターネットの活用、ニーズの拡大、伸びの方が、はるかに大きいためです。全く新しいカテゴリーに、全く新しい市場ができた時には、景気は関係なくなると思います。市場シェアを大きく占有して、マチュア—(成熟)になれば、競合が増えたり、価格競争が激しくなったりして、景気動向の影響を受けるようになるとは思います。

業績は順調だが、バックオフィス構築に注力

松室:現在の売上や業績についてはどう評価されますか。
梁瀬:今は、ISP事業による売上が9割以上です。これだけ急激な成長下では、現状で精いっぱいというのが、本音ですね。
松室:今後の目標は104億となってますが・・・。
梁瀬:今期の第三四半期までで70億円、期末の3月は不動産は駆け込みがあるので、順調ではないでしょうか。
松室:利益率も高水準です。
梁瀬:上場企業なので、利益率を守ることは大切です。しかし、利益だけでもだめです。お客様には豊富に「選択肢」があるので、ご自身で回線を選んでインフラ整備をするほうが安いとか、競合他社の方が条件が良くて安い、といった情報を沢山お持ちです。ですので常時、仕入れや施設整備の原価など良く考えながら、適切な利益幅を設定していかなくてはならないと思います。
松室:既存の競合に対しての優位性は、どこにあるのでしょう?
梁瀬:提供するサービスの価格、サービスの品質などもありますが、OEM事業の面では、特にハウスメーカーの「お手伝い」をすることでしょう。サブリース案件の場合などでは、特に「空室」というのは困る。なので、入居率を上げるお手伝いも当社の「営業の一環」ととらえています。そのため、ご縁のあった会社(フォーメンバーズ)に出資をさせていただき子会社化をしました。イオンモール様と提携し、イオンモールなどの店舗内で、不動産仲介店舗を運営しています。現在、直営で10店舗、ネットワーク店を含めると全国で17店舗となっています。
松室:不動産事業展開の狙いを詳しく教えてください。
梁瀬:もともと、ギガプライズのビジョンは「不動産Techのリーディングカンパニーへ」です。単にISPを導入するのではなく幅広く不動産領域の事業を志向しています。そして、ISPのOEM事業は、ハウスメーカー様から発注をいただいています。しかし、長く安定した関係を築くには、顧客にパートナーとして意識してもらえる立場になることが大切だと思っています。そこで、ハウスメーカー様が一番大事にしている入居率を上げるために、少しでもお役に立てればと考え、不動産仲介事業に参入することにしました。もともと、不動産業の経営経験もありましたし。
松室:本業の提供だけでは、パートナーというのは難しいですか?
梁瀬:お客様の困りごとを解決するのは商売の基本。だから、教科書的ではありますが、基本に忠実にやっています。ハウスメーカーのお手伝いとなる不動産事業が、自分たちの本業を結果として守るだろうと。

スマートハウスは「誰が費用を負担するのか」が課題

松室:IoTによるスマートハウス的な展開は?
梁瀬:2018年3月に共同リリースしました大東建託様、東京電力パワーグリッド様との取り組みは進めています。そのほか関連技術を持つ企業への出資も一定レベルで行なっています。
松室:感触はいかがでしょう?
梁瀬:SFの映画やテレビドラマでは、ドアに鍵がありませんよね。指紋認証とか虹彩認証とか、何らかの形で、将来、物理的な鍵は無くなると思います。
松室:最近は各種センサーもあるし、照明、AVの調整など家の中については、かなりできるのではないでしょうか?
梁瀬:そうですね。技術的には問題がないと思います。問題は、誰がそうした付加価値に対して費用を払うのかということになりますが、賃貸住宅の場合には、家主、ハウスメーカー、借主のなかの誰かが負担しなくてはなりませんが、今のところ、IoTの付加価値に対して積極的に払う方は現れていないように思います。
松室:便利さだけにはお金は払わない?
梁瀬:もちろん、自分の所有する家に払う方はいると思います。賃貸でも、最新のものが好きな方はポケットマネーで。そうした方は、個人的にIoTのデバイスは買ってくれている。けれども、我々はB to B to Cのビジネスモデルなので、誰が費用負担をするのかが、問題となるわけです。ここがハッキリしないと難しいです。
松室:そうしたスマート住宅などの普及の決め手は何でしょうか?
梁瀬:入居者のデータは、ビッグデータになりうるので、第三者の「広告主」が払う、というスキームは考えられます。個人情報の取り扱いルールが明確になれば、データの活用(による費用負担)で、スマート住宅の普及は進むかもしれない。入居者もお金は払いたくない、家主も(費用を)払いたくないというのが現状ですから。
松室:スマート住宅も広告モデルですか。
梁瀬:入居者が喜ぶのは、スマート住宅の利便性とクーポンなどの実益でしょう。この場合も「自分の行動はどうぞ見てください。個人情報は秘密じゃない。その代わりクーポンが欲しい!」というようなマインドの入居者だと、大丈夫なのですが、当然、逆のマインド方もいる。個人情報の取り扱いが、法的にも世間的にも不透明な現状で、あまり拙速にやると、ハウスメーカーや家主に、ご迷惑がかかるというタイミングだと思います。
松室:スマートハウスにすると、光熱費とかは安くなりませんか?
梁瀬:スマート住宅の電気代は安くなるのですが・・・。普通の集合住宅の場合、現状、電気代は月額1万円以下。スマート住宅にしても、せいぜい、安くなるのは10%ぐらい。普通の家庭では、手間をかけて数百円の節約のために、個人の選択肢にはならないのではないでしょうか。一方で、ハウスメーカーが管理している物件全体で考えると、月額で数億円の収益にはなる。さらに、電力の自由化なども組み合わせるといったことも含めるとメリットは大きいでしょう、理屈通りなら。
松室:手の届く技術はあるが、実現しないのはもどかしくないですか?
梁瀬:本業のISP事業をきちんとやる方が先です。実際、狭い集合住宅でスマート住宅化など高度にIoT化することは、意味があるのだろうかという問題もある。照明のスイッチ、テレビのリモコンとか、座ったまま手が届く範囲にあるじゃないかと(笑)。

プロの経営者としての組織運営

松室:企業を成長させる上での経営の難しさ、組織運営のポイントは?
梁瀬:新卒入社は銀行で、大きな全国組織でした。次の会社は、数千人規模で全国展開。今のギガプライズが実は一番小さな会社で、最初は従業員数が少なくて「さみしい」と思いました(笑)。でも、結果として、恵まれているのですが、規模の大小を経験してきたので、社員数と売上の規模別に、経営としてなすべきことが見える。なので、当社就任時の4年前には、会計システムを含め、基幹システムに投資しました。ずいぶん反対もされましたが、おかげで昨年、25.7万戸の業務処理が間違いなく出来ました。人事制度、情報システムなど、事業規模に対応して、優先順位を付けて装備しています。漏れがないように、上場企業としてきちんと対応できているのは確かだと思います。
松室:経営者としての戦略の立案に気を付けていることは、なんでしょう。
梁瀬:まず、マーケットポテンシャルの見極めが大切です。大げさに見えますが、業種別のGDPから考える。伸びている業界が、ビジネス展開としては簡単なので。さらに、プレイヤーが多く、ある程度、入れ替わりがあり、適度なマーケットサイズがある業種でビジネスを拡大する。
松室:ギガプライズの場合にも当てはまる?
梁瀬:まず、不動産業界、住宅業界はGDP的にも伸びています。年間94万戸(2017年度)以上新築が供給されますが、その43%が賃貸住宅です。その内、大東建託様、大和ハウス工業様、積水ハウス様のトップ三社が32%ほどのシェアを持つという構造です。将来的には、この三社がもっと大きなシェアを持つようになると思います。ですから、当社としては上位三社を中心に営業をかけています。
松室:企業の成長に合わせて、社内体制を整備するコツとかは?
梁瀬:まずは、既存の社員には、何も言わないことが大切でしょう。「効率が悪いなぁ、充分じゃないなぁ」と思っても、半年ほどは現有戦力に、そのまま任せています。その上で、出来ないところがあれば、外部人材を中途採用してといった感じです。目標とする組織の最終形はあっても、いきなりそこを狙うのではなく、マイルストーンを作って、徐々に完成させていきます。
松室:プロの経営者としての心構え、テクニックなど教えてください。
梁瀬:上手くいかなくて、当たり前です。入社からしばらくの間は「新しい社長はダメだよねぇ。あの人は・・・」とか社員に言われます。でも、歳をとったのか、ほっておけるようになりました。会社を「変える」には経験とテクニックが必要なので、徐々に結果を出すことで評価される。普通の会社では、社員は悪くありません、頑張っています。でも、思う様な結果が出せない時もある。その状態が続くと社員も組織もマズくなっていく。社員が人生の多くの時間を、会社に使っているのは確かです。会社が業績面で良い結果を出せれば、社員にも還元できます。その辺は経営者の技量になるのかもしれません。
松室:組織運営のコツとは、具体的にどのようなものですか?
梁瀬:経営の経験はあるので、事業の進捗、決算の仕上がり具合などは、把握できます。フロアを見ていると、事業上のトラブルが発生していれば、そこはかとなくザワついている一角が見えてきます。その近くに足を運び、社員とやんわりと世間話をしながら、その場にたたずんでいると、いろいろとトラブル回避の相談もあったりします。出向いて行って、社員の話を黙って良く聞く。遠くの社員の不味い話が聞こえる、というのは組織運営のコツかもしれません。
松室:社員の能力を発揮してもらう梁瀬社長の方法論は、どのようなものでしょう?
梁瀬:会社では、こちらから、「売上をいくらまで達成せよ」といった数字はあまり言ったことがありません。数字で言うと命令になりますから。100やれと言うと、100で終わる。事前に議論して、自らで理詰めで考える方向へ、持っていく。その辺はお互いに厳しくやっています。そして、社員が自らで目標を作る。そうすると、これが確固たる目標になる、何となくはダメです。自分たちで考えた目標なら、実際の現場での、いろいろな変化にも対応できるようになります。なぜうまくいかなかったのかを考えて、対処できるようになることが大切なのです。例えば、100件成約の営業目標が、いきなり200件成約達成になったら注意をします。100件多く成約したことで、その「後行程」の工事や運営などが、合理的に処理できる件数を越えてしまうのですから。成約が200件になりそうだったら、早めに、後工程まで考えて動いて先手を打たないとダメなんです。自ら設定し、経営がコミットした目標なら、そうした手当が早めに確実にできる筈、というのが、僕の持論です。
松室:若い経営者、ベンチャー創業者に先輩としてメッセージを。
梁瀬:まずは、好きにやる。起業したからといって偉い訳でもないし、僕のように創業よりも、会社を伸ばす方が得意な人もいる、そうした適性は、実際にやってみないと分からない。でも、どんなタイプでも、最期は「滅私」に至る。社内では自分勝手と言われている、僕が言うのだから、本当です(笑)。社長というのは「自分は損、自分は最後、滅私」なのです。会社というのは、逆三角形が基本。一番上がお客様、その下に営業や現場の社員がいて、その下に管理部門、その下が経営層で、一番下が社長というサーヴァント・マネジメントが基本です。こうしておくと、下の先っぽがとがっているから、実は会社を動かす、変えるのは簡単。社長自身が動けば良い。社内の情報も、ちょっと揺すれば、下に落ちてくる。毎日、会社の最後の戸締りは「自分でやる!」というくらいの気持ちが、僕の基本ですね。

【松室顧問の取材後記】
梁瀬社長の話には衒いがない。自分を大きく見せたり、逆に矮小化することももちろんしない。淡々とやってきたことを振り返り、やろうとしていること、その構想を理論的に語る。これは自分に自信がなければできないことだ。世に多くのプロの経営者は存在するが、梁瀬さんのような人が本当のプロの経営者だと思う。話を聞くとそれがよくわかる。

◇梁瀬 泰孝(やなせ・やすたか)
1967年8月東京都生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、1991年、株式会社第一勧業銀行(現 株式会社みずほ銀行)入行。退職後、複数の上場企業等の役員を務め、2012年 株式会社エイブル代表取締役社長に就任。2014年 エイブル&パートナーズ副社長を経て、2015年6月 ギガプライズ 代表取締役社長に就任。

◇松室 哲生(まつむろ・てつお)
元『週刊ダイヤモンド』編集長。ダイヤモンド社代表取締役専務を経て2004年に独立。取材などで1万人以上の経営者と会い、生前のピーター・ドラッカーにインタビューした数少ないジャーナリストの1人。著書に「極秘資金」(小説:講談社刊)、「おもろい会社研究」(日本経済新聞出版社刊)など。

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