社長は「滅私奉公」。対象はステークホルダー全員(ただし優先順位アリ)

「良い会社」にするということを、自分自身のテーマにしようとした、きっかけは、社員それぞれの「夢」の片棒を、会社が社員と一緒になって「担ぐ」というイメージでした。
これのおかげで、私が今の会社を「どんな会社にしていきたいか」という方向づけが明確に出来たのです。
私のイメージする「良い会社」。
つまり、社員の「夢の片棒」を会社が担いでいる状態とは、どんな形なのか。会社からその姿勢を、より具体的なメッセージとして社員に示す必要がありました。(ディーコープ社長 谷口健太郎)

みなさんが船に乗るとき、目的地を知らずに船に乗る人はいないと思います。
ハワイまで、今では、船で行く人はいないと思いますが、ハワイに行きたかったら、ハワイ行きの船に乗りますし、オーストラリアに行きたければ、オーストラリア行きの船に乗ると思うのです。
船に実際に乗るときは、イメージしやすいのですが、船を会社とすると、会社に入るときに「この船の船長さんは、会社という船の舵を、どこに向けているのだろうか?」「その舵の方向に進むときに、どのような航海のやり方で操船していくのだろうか?」などを調べもせずに、外面の会社の評判だけで、入社してしまっている方も、沢山いるのではないでしょうか。

これは、行先の分からない船に乗るようなもので、自分の勝手なイメージと会社の実際が違っていたら、「こんなつもりじゃなかった・・・」と、そのギャップに苦しむようになるのだと思います。
それで、今いる社員に対しても、今から入ってくれる社員に対しても、この会社は「良い会社」行きの船で、その「良い会社」とは、どんなところで、そこにどうやって行くかをみんなにハッキリと理解してもらう必要があると思っています。そうすることで、入社した後のギャップをできるだけ少なくできますし、今いる社員にとっては、会社がどこに行こうとしているかという「目標」を明確にして、納得して、一つにまとまっていくことができます。
その結果、より目的達成の可能性が高まっていくのです。

「良い会社」とは? 色んな人が、色々な考えを持っていると思います。

私の考えている「良い会社」というものが、正しいか、正しくないかではなく「こんな考え方もあるのだ」という風に押さえて、社員それぞれに「自分が進みたい!」と思っている志も合わせて考えて、社員が自分なりの「良い会社」という理想像を持ってらえたらと思っています。

余談ですが、うちの会社のグループのトップは孫正義です。
彼は経営には「因数分解」と「多変量解析」が、絶対に必要ということをよく言っています。そこで、私の考える「良い会社」を「因数分解」して、構成する要素を4つ申し上げたいと思います。

一つ目、それは、「社員が満足している」こと。
二つ目、それは、「儲かっている」こと。
三つ目、それは、「自己成長できている」こと。
四つ目、それは、「コミュニケーションがとれている」こと。

これについて、ひとつ一つお話ししていきましょう。
まず「社員が満足している」ということ。
これは、よくいうES(従業員満足/Employee Satisfaction)が高ければ、もちろん「良い会社」なのですが、それでは、ESが良くなるというのはどういうことなのか。
このESを向上させる議論の中で、ESとCS(顧客満足/Customer Satisfaction)、どっちが優先されるかという議論がよく行われると思います。
世間には「お客様は神様」という言葉もあり「顧客第一主義」という言葉もあります。
経営者にとって、ESとCS、どっちを優先にするかというのは、もう、これは経営者のポリシーでしょう。私自身は、ESとCSであれば、絶対にESが優先されるべきと思っています。
私は「従業員が満足する」という「目的」を達成するための「手段」として、CSがあると思っています。もともと、ESとCS、どっちが「大事か」どっちが「重要か」という議論ではなく、ESもCSも、どちらも大事で、どちらも重要なのです。

「顧客満足」の向上を達成するという目的のために「従業員満足」を手段として使うというのは、どうもイメージがつかず、成り立ち難いと思います。
人間というものは、誰かの役に立っているという実感があると、とても「幸せな気持ち」になれます。これは人間の根底に流れているものだと私は思っていて、顧客が満足していることを、従業員が実感することによって、「幸せ=満足感」を感じられるのだと思うのです。
脳科学的にも、他人から「ありがとう」って言われると、幸せな気分になる物質が出てくることが報告されているみたいです。

ESとCSは、どちらが大事かという問題ではなく、コインの裏表なのです。
その両方を達成するための考え方が経営のポリシーなのです。
従業員満足度を上げていくという「大きな目的」のために、まず、顧客満足を上げていって、自分が「顧客の役に立っている」ということを、従業員が実感する。
この順番ではじめて、「ES」と「CS」の両方の向上が、達成できるのではないかと思っています。

二つ目は、「儲かっている」ということ。
いろいろ問題があっても「儲けが七難隠す」といわれるように、やはり会社は儲かっていないと、さまざまな問題が噴出してきて、色々なところで、ぎくしゃくしてきます。
社員の夢の片棒を担ぐということ、つまり私にとっての「良い会社」にするということを実現させるためには、儲かっていないといけません。
従業員の夢を実現するための軍資金である「給与」も十分払えず、支援もできず、結果、片棒も担げなくなります。儲かった利益は皆で山分けしようという考え方も、儲かっていなかったら「画餅」(絵に描いた餅)です。

良い会社は、成長していることを実感している社員で構成されている

三つ目は、「自己成長」です。
「良い会社」の一つの要素に「自己成長」という、個人レベルの項目が入っていることに違和感を覚える方もいらっしゃるかも知れません。
ただ、人間というものは、常に「自分を成長させたい!」という思いを持っていると思いますし、逆に自己成長が実感できないと、フラストレーションを抱えてしまう動物だと、私は思っています。

個人個人、一人ひとりの集まりでできているのが組織であり、会社です。
その一人ひとりが、自己成長できるという状況が会社にあれば、その個人や社員にとって「良い会社」になると思っています。
ここで私が言っている「成長」というのは、仕事ができる様になるとか、プレゼンが上手くなるとか、外国語が喋れる様になるとか、リーガルの知識がつくとか、財務の知識が得られるとか・・・、そんなことではありません。
もちろん、そうした「技術」の習得も「成長」であることは確かです。

私の会社でも、そういう「技術」習得の為に、会社は研修を実施して、社員の「成長」の後押しもしています。
ただ、私の言っている「成長」は、もっと根本にある人間としての「成長」ということなのです。ちょっと大げさになるかも知れませんが、そんな「成長」を後押しできる様な会社でありたいと思っていて、それを「良い会社」の一つの要素にしています。
人としての「成長」。それをどうやって「会社で働く」ことで可能にするのか?
とても難しいことですが、やはり「見本になる上司」の存在が「カギ」だと思います。
と申し上げて、なんですが・・・。
私は人間的に、立派な人間でもなんでもありませんから、どうやって、その社長としての気持ちを、社員に伝えているかをお話しします。社長になると、立場上、色々と人間的に魅力の人達との出逢いが多くなります。
以前にもお話しした、元三井物産副社長の渡邊五郎さんもその一人です。
自分自身、まだまだ「人としての成長」は出来ていませんが、魅力のある人との出会いによって、自分がどっちの方向に進んだら良いのかは、徐々に見えてきます。(もちろん、その方向も、新たな出会いで、どんどん進化して行きます)
だから、その社長が「この方向に進むことが『成長』には必要だ!」と思ったら、社員と出来るだけ速やかに共有して、社員とともに、一緒に「成長」できる環境に、会社を作っていければと思っています。

いろいろな先輩や友人に教わったフレーズや言葉を、社員に話したり、メールしたり、さらには絵にしたりしているのは、まず、自分が教えてもらった「良い言葉」を、すぐに社員と共有したい!との思いからです。
また、自分が良い影響を受けた素敵な先達を会社に呼んで、話をしてしてもらうことに積極的なのも、滅多に会えない人から直接話が聞けるというのは、社員にとっても貴重な「成長」の機会になると思っているからです。
そういう意味で、社長の役割と心がけが会社に与える影響は大きいと思います。

家族の集まりのように「居心地の良い」会社にしていく

最後に、「コミュニケーション」です。
もちろん「良い会社」というのは、風通しが良いというのも特徴の一つです。
そのためのコミュニケーションという意味もあるのですが、もっと根底にあるのは、会社という人の集まりが「家族の様なコミュニティになれたら・・・」との思いなのです。

学生の頃は、いつでも会える友人がいて、悩みがあれば、すぐに一晩中でも一緒に悩みについて共有したり、話したりできたものです。しかし、社会人になってみると、そんな友人と縁が切れているわけではないのですが、お互いに別々の会社に入り、忙しくしていたりすると、学生時代は毎日会っていた親友ですら、会うのは年に数回といった関係になることも、珍しくありません。
その一方で、たまたま同じ会社に入社した人たちとは、朝から夕方まで8時間一緒にいるということも、当たり前だったりします。

ならば、物理的に一緒にいるだけでなく、出社したら、悩みを相談できる友達がいる、とりあえず、話を聞いてくれる相手がいる。そんな家族のようなコミュニケーションが取れる会社になれたら、社員一人ひとりにとっても「良い会社」になるのではないかなと思っています。
もちろん「会社は会社、会社は義務、義務が終わったら、さっと自分の世界に戻る」といいう考えもあると思います。ただ、それだと、一日24時間のうち、会社にいる8時間という、一日の三分の一を我慢して辛抱して過ごすということにもなりかねません。それより、何かと楽しめて、悩みも聞いてもらえる、そんな8時間を持てる環境の方が、素敵じゃないかなと思うのです。

「良い会社」とは、ということを、私なりに構成している要素を「因数分解」してお話ししてきました。
ただ、これらのお伝えした要素は、あくまでも私が思っている「良い会社」の要素ですから、それを皆さんが鵜呑みにして、全部を実行する必要は、全くないと思っています。
良い会社というのは、それぞれ皆さんの頭にあるものだと思います。
ただ、唯一、絶対に「譲れないところ」は、良い会社というものは、社長である自分のためにだけ良い会社というのは、絶対に回りからみたら良い会社ではないと思います。
ステークホルダーマネージメントという言葉がありますが、ステークホルダーというのは、株主、社員、お客さま、(周辺)社会、協力会社という5つという要素でできています。
要は、このバランスなのだと思います。
そして、このバランスの具合は、一人ひとりの「社長」によって違うのだと思います。ただ、それが、どこかに大きく偏ってしまっていては「良い会社」には、絶対になり得ない。
社長にとって、この「ステークホルダーマネージメント」のバランスのとり具合が、一番大事な仕事なのだと思っています。

◇谷口 健太郎(たにぐち けんたろう)
ディーコープ株式会社(DeeCorp Limited)代表取締役社長。早稲田大学大学院理工学部工業経営学科卒。1987年、日商岩井(現、双日株式会社)へ入社。営業としてトルコなどに赴任しプロジェクトを多数手掛ける。2000年、ソフトバンクに転職。2002年、執行役員として同グループ会社のディーコープ株式会社へ転籍。2006年10月、同社代表取締役に就任。2012年6月に代表取締役を退任するが、2014年4月に株主の要請もあり再度代表取締役に就任。

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