オールブラックスを復活させた、自主性と内発による「勝利する文化」とは?

今年9月に日本で開催されるラグビーワールドカップ。参加20チーム中最も注目されるのは、3連覇を狙うニュージーランド代表だ。その黒いジャージから“オールブラックス”の愛称で知られる彼らは、ラグビー史上で比類なき成功を続けている。これまで対戦したすべての代表チームに勝ち越し、その勝率はおよそ8割近く。なぜこれほどの強さを維持できるのだろうか?彼らの強みを紐解くことは、ビジネスやマネジメントにおいても数多くの示唆があるのではないだろうか?今回は、その特筆すべきチームビルドの一例を紹介したい。(ライター 草間としき)

低迷を打開する新鮮な空気の醸成

ワールドカップを連覇している現在のオールブラックスだが、実は1998年から2004年にかけて「長い低迷期」があった。黄金期を築いたベテラン選手たちが数多く退き、低迷期の終盤には選手のモチベーションも低く、チームのまとまりもなかったといわれている。

「低迷の終わり」が見えてきたのは2004年。ニュージーランドのオークランド地区代表やウェールズ代表のヘッドコーチで実績を残してきたグラハム・ヘンリーがオールブラックスのヘッドコーチに就任。もはや抜本的なチーム改革が迫られている状況だった。ヘンリーは、スティーブ・ハンセン(現在のオールブラックスのヘッドコーチ)やウェイン・スミス(昨年の神戸製鋼の躍進を支えた名コーチ)をアシスタントコーチに、そしてギルバート・エノカをメンタルスキルコーチに迎えている。チームを陰日向に支えるプロフェッショナルのスタッフを配置して、リッチー・マコウをはじめとする中心選手たちと「オールブラックスに必要なことは何か?」を問い続け、チームのあり方など根本的な方針やチームに求められる基準を打ち出して、チームの行動に結びつけていった。

勝つ集団の確固たる“文化”とメンタルスキル

ラグビーのみならず、スポーツやビジネスにおける「勝者」の多くに共通して見受けられることのひとつに、強いチームならではの確固たる“文化”の形成がある。それはオールブラックスも例外ではない。低迷期には、選手やスタッフの向いている方向が異なってくる。そのため、本来持っている「強み」や「役割」などが、曖昧になり迷走をはじめるのだ。

旧態然としたマネジメントならば、低迷しているときほど、焦って「我が社の信条は」などと、上から目線で声高に叫ぶこともあるのではないか。されど、現場は一向に動かない。そう、ヘンリーやハンセンがオールブラックスを再建した過程には、わたしたちが学ぶべきことが数多く存在する。オールブラックスのような、どこよりも豊富な人材を有するチームであっても、全員が「同じ方向」を向くためには、マネジメントから押し付けるのではなく、まず、選手自らが自発的・内発的に「問い続けていく」ことが必要だったのだ。

“Better people make better All Blacks”(優れた人が優れたオールブラックスを作る)
低迷期から脱する際に発せられた、彼らの文化を象徴する共通語だ。世界の最強軍団、屈強な男たちのイメージとは裏腹に、どれほど「内省的」で「規律」を重んじたものであるかが理解できるフレーズだ。

以下、James Kerr著の『Legacy: What the All Blacks Can Teach Us About the Business of Life. 15 Lessons In Leadership』(日本語訳は『問いかけ続ける-世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範』東洋館出版社、2017年11月)から、実践的な行動を生み出す鍵となる考え方を紹介したい。

“Sweep the sheds.”(「小屋を掃除しよう」)
その意味するところは、謙虚な心持ちで、小さなことから大切にすること。まさに「小さなことからコツコツと」である。実際にオールブラックスのロッカールームでは、選手自身が掃除をしているという。昨年のサッカー日本代表でも、同様のシーンがあったことは記憶に新しい。毎日の行動を謙虚に。日常の「スモールステップ」が伴わなければ、どんな夢も実現しないことを思い起こさせる。

“Pass the ball.”(「パスを回そう」)
この言葉は、コアとなるリーダーグループが、新しい選手に今まで学んできたことを受け継ぐことを意味する。リーダーシップをコーチから選手たちに委譲しているのだ。日本ではビジネスにおいても、まだリーダーシップや権限がマネジメント層に残されているケースが散見され、スポーツでも独裁者のようなコーチが多い。ラグビーの試合は、戦略・戦術の実行力とともに、ピッチ上での観察からゲームの構造を理解した上で「気づき」をメンバーと共有し、状況判断や意思決定をその場で迅速に行うことが求められている。監督の「命令と管理」だけのマネジメントアプローチでは、勝つことは難しいのだ。

“Keep a blue head”(「冷静を保とう」)
これまでスポーツやビジネスでは、メンタル面のアプローチが「疎か」にされてきた傾向がある。プレッシャーからの焦りや、うまくいかないときの「苛立ち」や「怒り」など。予期しない脅威にさらされた時の「脳の状態」を、オールブラックスでは“レッドヘッド”と呼んでいる。
正常な判断ができる冷静な状態、彼らのいわゆる“ブルーヘッド”を取り戻すこと、あるいは維持することが重要とされ、選手たちは「ブルーヘッド」を取り戻すための対処法を各々が必ず持っている。

ワールドカップに向けての「視点」

どん底から這い上がる際の「勢い」は最も強く、改革後の継承者であるハンセンは、ワールドカップ連覇のミッションも成功させた。19年日本大会は、強豪の多くが「打倒オールブラックス」を目指して大会に臨む。今やオールブラックスの強化アプローチも周知され、徐々に他国との差はなくなってきたとも考えられる。

昨年12月、ハンセンはこの大会を最後にヘッドコーチを退任する意向を示した。会見では「新しいスタッフで、新たな視点や思考を入れることがチームのためになる」と説明。ひとつの成功事例が、今大会で極みをみせて有終の美となるのか。それとも限界をみせて再び最強チームは陰りに向かうのか。さまざまなビジネスやマネジメントの「栄枯盛衰」に視点を重ね合わせて「観戦」するのも良いだろう。

試合中は、ボールが動いていないときの選手たちの「身振り」や「表情」から、メンタルをいかにコントロールしているかにも注目してほしい。逆に言えば、オールブラックスが“レッドヘッド”から抜け出せないほどのパニックに陥るのは、一体どんな場面なのか?これを想像するのも、観戦における「視点」として興味深いものになるだろう。

【参考URL】
The All Blacks guide to being successful (The Telegraph 2014年11月14日)
トップ対談 強い組織やリーダーの育て方とは S・ハンセン氏vs玉塚元一氏(日本経済新聞電子版 2018年2月20日)
【参考書籍】
『問いかけ続ける-世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範』(ジェイムズ・カー著, 恒川 正志 翻訳 東洋館出版社、2017年11月)

草間 としき(くさま としき)
東京生まれ、ライター。公立高校のラグビー部に所属し、CTBとしてプレー経験あり。
大学卒業後、留学したニュージーランドでラグビーの奥深さに触れ、地元クラブに参加する。以来、国内外のラグビー動向を定点観測中。

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