「手数料無料なんて今だけ」。QR決済を導入しない個人商店の本音

クレジットカードや電子マネーで買い物する「キャッシュレス」の促進が叫ばれて久しいが、商店街などの個人商店への普及が課題となっている。地域のキャッシュレス化はどこまで進んでいるのか?JR髙田馬場駅周辺の店舗や商店街を中心に、詳しくレポートしていこう。(消費生活ジャーナリスト 岩田昭男)

キャッシュレス化最大の壁は手数料

マクドナルドやドトール、吉野家、ガストなど、飲食店のチェーン店が立ち並ぶJR高田馬場駅周辺。徒歩圏内には「さかえ通り」や「大隈通り商店会」など、個人商店が居並ぶ商店街があり、ラーメン店や居酒屋などが学生を中心に人気だ。しかし、キャッシュレス化が当たり前になりつつあるチェーン店とは対象的に、個人商店のほとんどはいまだに現金オンリーだ。

なぜ個人商店はキャッシュレス化に消極的なのか?一番の理由は、ほかでもない手数料の負担だ。クレジットカードや電子マネーでの支払いの場合、店側はカード会社に3%〜6%の手数料を払わねばならない。当然、儲けが吹き飛んでしまうので、キャッシュレスが当たり前な時代になっても、積極的に導入しようという姿勢にはならないのだ。

ネックになるのは手数料だけではない。初期投資として端末を購入する必要もあり、その費用には約10万円かかる。カード売上の入金も、15日~30日後にずれ込んでしまうので、利益の乏しい個人商店では運転資金がショートする危険性すらある。個人商店の多くは、そんなリスクを負うことを避けているのだ。

QR決済で中国人留学生を取り込め!

こうした中、個人商店から関心を集まっているのがQRコード決済だ。別名スマホ決済とも呼ばれるQRコード決済は、楽天ペイ、LINE Pay、PayPay、Amazon Pay、d払いなどが代表的だ。

消費者がスマホでQRコードを読み込む形式なので、店側としては事前登録さえ済ませれば高額な機材を購入する必要はなく、コストを抑えられる。「3年間は決済手数料無料」というキャンペーンを打ち出したPayPayなどでは、カード決済で問題となる手数料がネックになることもない。加えて、翌日入金など、中小小売店に優しい性格も持っている。

個人商店にもQRコード決済を普及させようと、早稲田大学そばの大隈通り商店会では昨年10月、QRコード決済を使ったスタンプラリーが行われた。Amazon Payやd払い、PayPay、WeChatPay、アリペイなどのQRコード決済とスタンプラリーを組み合わせたこのイベント。多くの人にスマホ決済を「体験」してもらうことを目的に、QRコード決済導入店と商店会が中心となって催した。実際に買い物をする必要はなく、スマホでQRコードを読み取るともらえるスタンプを10個貯め、景品と交換できるというこの試み。消費者からも店側からも大変好評だった。

早稲田大学の学生が多く利用するこの大隈通り商店会では、特にキャッシュレス先進国の中国人留学生の利用を見込んで、QRコード決済をキャッシュレス化の主流に位置付ける取り組みを進めている。

やっぱり現金が一番?個人商店主の本音

しかし、肝心の個人商店主たちの姿勢は意外と慎重だ。ある店主は「今はキャンペーンで手数料がタダだというけれど、今後手数料が取られるとなると問題だね」とし、いまだにQRコード決済導入には踏み切っていない。

入金の仕組みについても課題はある。QRコード決済の場合、現状では規格ごとにサイクルがバラバラなのだ。例えば、PayPayは1万円たまった段階での振り込み、WeChatPayでは3営業日後の振り込み、Amazon Payでは45日後の振り込みと、仮に3種類のQRコード決済を同時に扱った場合、振り込みのサイクルが統一されていないので、お金が寝てしまう恐れがある。

こうなると、「やはり現金が一番」――という思考になってしまっても致し方ない。今でこそ爆発的な伸びを見せているQRコード決済だが、2、3年後にはコードを読み取るタブレットが店の奥に仕舞われてしまうという事態も十分に想定できる。この辺りの課題をいかにクリアにしていくかが、個人商店にキャッシュレス化を普及させていく上で重要なカギとなる。

周りの店がほとんど「現金お断り」状態になり、カードを持たないと買い物ができないような状況を作り出せれば、キャッシュレスは加速度的に促進されるといわれる。多くの外国人観光客を見込める来年の東京五輪後に個人商店や商店街がどうなっているか、時間との競争である。

◇岩田 昭男(いわた・あきお)
消費生活ジャーナリスト。月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動。ゴールドカード、プラチナカード、ブラックカードなどを集めた「岩田昭男の上級カード」でカード情報を発信中。著書に「キャッシュレス覇権戦争」(NHK出版)「Suicaが世界を制覇する」(朝日新書)など。

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