今回は人事部や人事制度の話ではなく、海外から見えた日本の人材育成における将来の不安について、思ったことを書きたいと思います。【中島豊】新時代の『人事部』について考えよう
各国共通で抱える第4次産業革命(Industrial 4.0)への不安
今年1月、日本政府からの委託事業に関連し、カンボジアのプノンペンで開かれた世界17か国の使用者団体代表の国際会議でコーディネーターを務める機会がありました。初めて訪れたプノンペンの街は、空港からの道路も整備され、あちこちで高層ビルの建設が進み、予想以上の発展を見せていました。一昨年訪れたネパールのカトマンズ、昨年行ったインドネシアのジョグジャカルタと比べても、通りを走るバイクの数よりも四輪車の数が多く、その車もメルセデス、BMWなどの高級車で、傷のない綺麗なものが多いという印象でした。
各所に信号機も設置されていましたが、これは日本にあるものと全く同じもの。日本からの支援によって整備されているということでした。日本からの支援と言えば、特筆したいのは「水道の整備」で、同行してくれた関係者によると、これによってプノンペン市内では水道水が飲用可能になり、乳幼児の死亡率が劇的に下がったとのことです。
街の中には、日本語の看板はまず見かけない代わりに、中国語の看板はいたるところに出ており、ベトナムやマレーシアなどと同様、この国が「華僑の経済圏」にあることを実感しました。ちなみに、カンファレンス会場となったホテルの中では、中国系企業と思われる会社の展示会やビジネスミーティングが開かれていました。中でも、ロビーにある円卓に十数人が陣取って、何か報告会のようなものをしていて、そこの上席に座っているボスらしき人が、参加者の一人ひとりを指さしながら、中国語で怒鳴りつけているのが印象的でした。(昔の日本企業ではよく見られた光景ですが、今だとパワハラで完全に「アウト」ですね)
話が逸れてしまいました。
この会議は、国際会議といってもアジア以外の参加国はメキシコだけ。シンガポールや韓国といった先進国のほか、中国、インド、インドネシアなど多数の人口を抱える国も参加していました。他には、スリランカ、パキスタン、モンゴル、ネパール、ミャンマー、ベトナム、さらには受入国であるカンボジアといった、いわゆる途上国からも参加がありました。
会議の統一テーマは「テクノロジーの発展と労働問題」。最初に、筆者が仕事や働き方に影響を与える社会、経済、政治における世界のマクロトレンドについて基調講演を行い、続いて各国の代表から、ITを中心としたテクノロジーの発展が、それぞれの国でどのような影響を与えているのかの報告がありました。
この報告で印象的だったのは、まず先進国と中国では、人口の高齢化が進み、「労働生産性が低下」しつつあることに、日本と同じような懸念を持っていること。その一方で、途上国では経済が発展し、中産階級層が厚くなった結果、国全体が活気づいているとともに、これまで産業の中核となっていた輸出向けの労働集約的な繊維・服飾業から、より付加価値の高い業態へと移行しようとしていたことでした。
続いてグループに分かれ、AIやRPAの発展が将来の人材マネジメントに与える影響について話し合い、今後「使用者」がどのような対応をするべきかについて議論を深めました。この議論の中では、どの国の代表からも「第4次産業革命(Industrial 4.0)」に対する、期待と不安について口々に語られました。問題意識として共通していたのは、新しい時代に対応するスキルを持った人材の不足と今後の育成でした。