正月の豊洲市場にどよめきが起こった。青森県大間産の本マグロが、史上最高値の3億3360万円で落札されたのだ。競り落としたのは、すしチェーン「すしざんまい」を運営している「喜代村」。もはや年始の風物詩となりつつある喜代村の初セリだが、なぜそこにこだわり続けるのか?木村清社長へ直撃すると、単なる企業宣伝の枠を超えた初セリへの「熱い想い」が垣間見えた。(Soysauce Magazine Online編集顧問 松室哲生)
「話題性だけじゃだめ。ポリシーがないとね」
松室:お久しぶりです。旬の話題なので、まず3億3000万円台で落札した初セリの経緯を教えてください。
木村:今回、ショッキングなことがありました。築地(市場)が(豊洲へ)移った影響で、去年(2018年)の暮れにお客さんが全然来なかった。売上も例年の半分くらいです。これでは築地が死んじゃうと思って、私は年末にはずっとテレビなどに出て宣伝しました。そうしたら築地にはお客さんが来るようになったんですけど、今度は豊洲に人がいなくなってしまった。そこで、じゃあ初セリで頑張ろうと。そうしたら3億3000万円台になってしまって、世界的にもインパクトが出た訳です。
松室:3億3000万円はなるべくしてなったんですか?
木村:そうですね。相手がいたので。
松室:マグロの落札額は年によって全然違います。今回は3億3000万を出してでも、とにかく落とそうという戦略でしたか?
木村:買おうと思ったらそうなっちゃったんです。戦略ではなくて。
松室:どれくらいまで出すつもりだったんですか?
木村:勝つって言ったら、(何円でも)買っちゃいます。とにかく買う!今度は高く釣り上げておいて、降りちゃおうかな。相手は困るでしょう(笑)。
松室:3億3000万円を出しても、広告宣伝費に換算したらペイできているんですね。
木村:そんなことは思っていないです。広告宣伝費にお金をかけたって、ペイなんてしない。でも、元気づけるのにはいいですよね。従業員もお客さんも喜んでくれた。それから、街も喜んでくれた。ある従業員が、「社長、よく買ってくれた。俺たちは職人をやっていて、3億円のマグロを握らせてもらえるなんて誉れだ」と喜んでくれたんです。嬉しかったなあ。
松室:それはいい話ですね。初セリとは少し違いますけど、最近だとZOZOの前澤友作社長が計1億円をTwitterユーザーにばら撒いたことで話題になりました。キャッチーな広告宣伝手法という意味では、似ているのではないですか?
木村:ZOZO?
松室:知らないんですか!Twitterでフォローしてくれた100人に100万円ずつ配ると言って、賛否両論を呼んだんです。
木村:宣伝なら、それはそれでありなのかもしれない。でも人をお金で釣ろうというのはダメですよ。お金はお金で逃げていっちゃいます。だからお金を掛けて事業をやる人とか、人にお金を貰って事業をやる人とか、人からお金を借りないとできないという人は、やっぱり大したもんじゃないと思います。
松室:賛否両論はあるにしても、目立つことで企業の宣伝効果はあると思いますが、そのあたりの手法としてはどうでしょうか?
木村:それも一つの手法なんですが、話題性を作ればいいというものではないと思います。そこには何かポリシーがないといけません。話題性だけだったら、薄っぺらくなってしまいます。
松室:その点、喜代村の初セリでは、従業員やお客さんを喜ばせるというポリシーがある。
木村:そう。いつも一番美味しいマグロを食べてもらうんだという気持ちがあります。うちの店は、正月でなくてもいつも美味しいマグロを出しています。