やはり、アベノミクスは大失敗でした。大失敗だけではすみません。この日本から、もっとも大切な「信用」まで破壊してしまいました。今回発覚した「統計偽装」はまさに象徴的な事件です。このままこの国で生きていけば、あなたに将来はありません。(ジャーナリスト 山田順)
「嘘」で成り立つ日本経済、見限った海外の投資家たち
厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正発覚から賃金偽装が明らかになり、アベノミクスが見せかけにすぎなかったことがはっきりしました。なにしろ、56ある国の基幹統計のうち、全体の半数近い統計に誤りがあったというのです。もはやこの国の経済は「嘘」で成り立っていたとしか言いようがありません。
それでも、政府寄りのメディアはいまだに安倍政権をかばい続けています。ことの重大性を指摘しようとしません。
しかし、投資家はそうはいきません。「嘘」に長期投資すれば、その分、大損してしまうからです。すでに、日本株に投資していた海外勢は東京市場から逃げ出しています。彼らは2018年、日本株を5.7兆円あまりも売り越しました。これは31年ぶりの売り越し高水準です。今年も売り越しは依然として続いています。残っているのは、火事場泥棒的に短期変動で儲けようという投資家(投機家)だけです。
つまり、海外投資家は日本経済を見限ったと言ってよく、もう戻ってくることはないのです。
それではなぜ、彼らはこれまで日本株を買ってきたのでしょうか? この昔日の経済大国に投資してきたのでしょうか?
公的資金投入でごまかすアベノミクスの「嘘」
海外投資家がこれまで日本株を買ってきた理由の一つは、アベノミクスで日本経済が好調になったと政府が常時アナウンスしてきたからです。ウォール街まで出かけ、「バイ・マイ・アベノミクス」と言った日本の首相が、とんでもない“大風呂敷男”だとは思わなかったのでしょう。
実際、企業業績は好転しました。しかし、これは単なる円安効果であり、本当の実績ではなかったのです。その証拠に、この数年間で日本企業が起こしたイノベーションは残念ながら一つもありません。
もう一つの理由は、市場に公的資金が投入されていたからです。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的資金と日銀は、日本株を買い続けてきました。すでに日銀は22兆円超のETFを保持していて、多くの日本企業で筆頭株主になっているのです。
もはや自由主義経済の市場ではありません。国家統制市場と言っていいでしょう。日本経済の自由度は、もしかしたら中国よりもひどいものです。
となると、株価は公的資金が投入される限り下がりません。下がれば、政府が勝手に国民のおカネをつぎ込むからです。したがって、海外勢は安心して日本株を買い、それを売って儲けることができるのです。
前記したように、2018年に海外投資家が売った株は、買った株を5.7兆円も上回りました。これに対し、日銀は6.5兆円ものETFを買い入れているのです。ですから現在の株価は見せかけの株価に過ぎません。もし公的資金が投入されていなかったら、現在の価格から5000円は下回っているでしょう。統計偽装の背景には、このようなアベノミクスのトリックがあるわけです。
「嘘」を重ねる官僚、「偽装」を繰り返す民間企業
アベノミクスは、日本経済が抱えている根本問題には一切手をつけませんでした。第三の矢である「構造改革」はほとんど放置され、「異次元緩和」というカンフル療法で問題を「先送り」してきただけです。
しかも、緩和というのは見せかけで、市中に緩和マネーは流れず、ほとんどが日銀に「ブタ積み」にされたので、期待されたインフレも起こりませんでした。長期金利はゼロに抑えられていますが、日銀はいまや450兆円を超える日本国債残高を抱え、政府は地方と合わせて1100兆円もの借金を抱えています。
国がこうなのですから、民間企業も「嘘」を平気で垂れ流してきました。「もり・かけ」問題で政権側が「嘘」と思われる発言を繰り返し、官僚がそれを忖度してデータや情報の隠蔽、偽装を重ねれば、民間がそれと同じことを繰り返すのは、言わば当然です。
日本では、大企業による偽装がもう何年も続いてきました。食品メーカーの食品偽装、電機メーカーの不適切会計、自動車メーカーの検査データ偽装、建設メーカーの耐震偽装など、「嘘」のオンパレードです。
もちろん、アベノミクス以前から、日本経済は問題を抱えていました。これまで日本経済を支えてきた製造業の海外移転による「空洞化」で、国内経済の衰退が進むことは再三指摘されてきました。本来なら、新たな成長産業であるハイテク産業やサービス業へと産業構造のシフトを図らなければならなかったのです。急速に進むグローバル化に対処し、ネットを中心とするデジタルエコノミーへの転換が求められていました。教育を変え、雇用形態を変え、規制を緩和し、国内から付加価値を創造できる仕組みをつくらなければなりませんでした。
しかし、多くの日本企業はこれを怠り、なんとか赤字にならないようにコストカットとリストラを重ね、内部留保をため込むことに専念してきたのです。コストカットのほとんどは労働賃金の削減によって行われました。非正規雇用を拡大し、事実上の賃下げを行ってきたのです。これでは、給料が上がるわけがありません。ところが、国はこれを隠すため、統計偽装による賃金偽装までやってしまったのです。