グローバル競争で絶対に勝てない日本企業の「素人人事」

中島豊 新時代の『人事部』について考えよう⑧

グローバルな企業間競争、日本は「人事で負けている」

一方で、日本企業の旧態依然たる「ローテーション人事」「ゼネラリスト人事」、言い換えると、キャリアの一時期に数年間ずつ、いろいろな部署に「腰掛」のように所属して得られるような、広くて浅い知識とスキルでは、こうした世界の動きを「キャッチアップ」していくことは、覚束なくなってきます。

つまり、グローバルな企業間競争において、日本企業は「人事で負けている」のです。
にもかかわらず、過去の「成功体験の罠」から抜け出せず、年功序列的で、ローテーション重視の「素人人事マン」を繰り返し育成している日本企業の姿は、冒頭に引用した日露戦争における、銃剣突撃の白兵戦のような「戦略の膠着」を思い起こさせます。

グローバルな競争環境下の人事で必要なのは、より深い専門性です。そのためには、欧米型の「職務主義」が、強みを発揮するでしょう。これからは「人事」のそれぞれの分野において、高度な知識を持つ人事の専門家が求められます。この点については、英国や米国にある「人事の専門家の資格認定制度」なども、参考になると思われます。

けれども他方で、行きすぎた専門化に「危うさ」を感じる読者も、おられるかもしれません。同じ『坂の上の雲』の旅順攻防の場面では、旅順攻略の大転換に反対していた専門家である参謀たちに対して、次のように書かれています。
「(前略)児玉に言わせれば、(専門家のいうことを聞いて戦術の基礎を立てれば、とんでもないことになりがちだ。)ということであった。専門家と言っても、この当時の日本の専門家は、外国知識の翻訳者にすぎず追従者の悲しさで、意外な着想を思いつくというところまで、知識と精神のゆとりを持っていない。児玉は過去に何度も経験したが、専門家に聞くと、十中八九、
『それはできません』
という答えを受けた。彼らの思考範囲が、いかに狭いかを、児玉は痛感していた。児玉はかつて参謀本部で、
『諸君はきのうの専門家であるかもしれん。しかし、あすの専門家ではない』
と、どなったことがある。専門知識というものは、ゆらい保守的なものであった。児玉はそのことをよく知っていた」
(司馬遼太郎(同前)p 94)

「専門バカ」という言葉があるように、専門家の深い知識だけでは「実践」することはできません。一方で「現場」をよく知ってはいるが、「知識」や「スキル」が一般的という実務家だけだと、下手なサッカーチームのようになります。ボール(課題)が飛んで来ると、一斉に皆が駆け寄って来て「なんとかしよう!」とするので、逆に「隙」がたくさんできて、失点を重ねてしまうのです。

これからのグローバルで企業間競争の激しい時代においては、「専門家」と「実務家」を上手く組み合わせることによってのみ、強い「人事部門」をつくることができるのです。
次回は、その「専門」と「実務」の上手な組み合わせの指針となる考え方を、私の「母校」であるミシガン大学のデーブ・ウーリック教授の提唱する「人事戦略」から学びます。

【中島豊】新時代の『人事部』について考えよう

◇中島 豊(なかしま ゆたか)
中央大学ビジネススクール特任教授東京大学法学部卒。ミシガン大学経営大学院修了(MBA)。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了(博士)。富士通、リーバイ・ストラウス、GMで人事業務に従事し、Gap、楽天、シティ・グループの人事部門責任者を経て現職。企業の人事部門での実務経験を背景に、人的資源管理論や人事政策論を専門とする。【著書】『非正規社員を活かす人材マネジメント』『人事の仕事とルール』『社会人の常識-仕事のハンドブック』(日本経団連出版)【訳書】『ソーシャル・キャピタル』(ダイヤモンド社)『組織文化を変える』(ファースト・プレス)

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