なぜ日本企業のトップは「定年の過ぎた」高齢者ばかりなのか?

中島豊 新時代の『人事部』について考えよう⑦

年数ありきの「昇進制度」が、経営陣の「老害化」を招く

では「職務ベース」の利点は何でしょうか?
それは「人件費管理」と「人材抜擢」です。
能力の伸長に応じて社員に給与で報いる「能力ベース」では、社員の能力が右肩上がりに伸びていけば、人件費も同じように伸びていきます。しかし、すでにお気づきのように、今日では、その「能力の伸び」は必ずしも業績の向上に結び付くとは言えなくなっています。そのため「能力ベース」を採用する企業では、定年制を設け、「年老いた社員の能力は減衰しうる」という「仮説」を設けて、中高年社員の「人件費抑制」を図らなければならないのです。

逆に「職務ベース」では、仕事が変わらない限り、大きな賃金アップは無いですから、人件費が年々上昇していくといったことはありません。しかも過去の記事で書いたように、「職務」は「戦略」をブレークダウンして設定されるため、職務遂行は戦略遂行、つまり業績に密接に関係します。企業経営の観点からは「効率的」(必ずしも「効果的」とは言えませんが)な人件費管理ができるのです。
日本企業で「職務ベース」の人事システムに切り替えた企業の多くが、バブル経済崩壊後に「業績不振」に苦しんだ企業だった点に、注目してください。

「職務」ベースのもう一つの利点は、「人材抜擢」です。
前回までの連載で書いたように「能力ベース」の場合、一定の能力水準に達しない限り、人材の登用は行われません。新卒から一人前になるまでの能力の段階的定義は「比較的容易」にできますが、経営、マネジメントレベルの「能力」やその開発段階の定義は、複雑すぎて困難です。
そこで「能力ベース」とはいいながら、「能力定義」に代えて「滞留年数」を能力蓄積の目安として運営しています。具体的には「彼は課長在職が5年経過したから、そろそろ次の昇格対象だ」といった運用です。言い換えれば、各段階での「修行年数」を「能力の目安」としているのです。(ある意味「年功序列」への先祖返り現象ですね・・・)

すると、どのような結果を招くでしょうか?
トップになるために「経営層の階段」を上がるとき、各階段で数年ずつ費やしてしまうので、企業経営の最前線を指揮するようになるころには、すっかり年老いて「定年寸前」というようなことになるのです。
現代の経営は「複雑さ」を増しているので、より中長期的視野で戦略を考え、遂行していく必要があります。2年任期で連続2期までといった、従来のような経営者の任命のやり方では、40代から50代半ばのトップが「腰を据えて」中長期に経営をしていく、グローバル企業に太刀打ちできなくなっています。

「職務ベース」の人事では、前回書いたように「入学方式」ですから、職務遂行の最低要件を満たしていれば、滞留年数に関係なく「抜擢が可能」になります。皮肉な言い方になりますが「能力ベース」の人事システムよりも、能力主義的な運用ができるのです。

このような二つの人事システムの「メリット」と「デメリット」を踏まえて、これからの日本企業は、どのような人事システムを作るのが良いのでしょうか?
「能力ベース」と「職務ベース」の、いずれかのみにするのが「難しい」ということは、読者の皆さんにも納得していただけると思います。この二つを組み合わせたハイブリッド型が、労働者保護に手厚く、長期雇用が前提となる日本には「相応しい」のではないかと思います。
私見ですが、キャリアの初期、つまり自分の専門分野が固まる新卒から7~10年程度は、「能力ベース」が適していて、その後「職務ベース」に切り替えていくのが、これからの日本企業には適しているのではないかと思います。

【中島豊】新時代の『人事部』について考えよう

◇中島 豊(なかしま ゆたか)
中央大学ビジネススクール特任教授東京大学法学部卒。ミシガン大学経営大学院修了(MBA)。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了(博士)。富士通、リーバイ・ストラウス、GMで人事業務に従事し、Gap、楽天、シティ・グループの人事部門責任者を経て現職。企業の人事部門での実務経験を背景に、人的資源管理論や人事政策論を専門とする。【著書】『非正規社員を活かす人材マネジメント』『人事の仕事とルール』『社会人の常識-仕事のハンドブック』(日本経団連出版)【訳書】『ソーシャル・キャピタル』(ダイヤモンド社)『組織文化を変える』(ファースト・プレス)

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