日本企業の「昇進=偉い」は、もはや時代遅れ?

中島豊 新時代の『人事部』について考えよう⑥

日本独特の「新卒一括採用」が学歴重視を生んだ

ここまで書いてきた「職務」と「能力」という人事制度の「基準の違い」という観点からみると、いろいろ面白いことが見えてきます。

例えば「なぜ、日本では新卒採用が一般的なのか?」。
それは、保有する人材の「能力のレベル」によって企業行動が制約される日本の企業では、企業を「強くする」ためには、いかに社内にプールしている「人材の能力」を大きくするかが、重要だからなのです。
新卒一括採用により、伸びしろがあり「潜在能力」が高いと思われる新卒を、大量に確保しておいて、自社で育成していくことで、企業内の「能力の総量」を高めていこうとしたのです。

中途採用は、確かに短期的に必要な「特定の能力」を獲得できますが、予測困難な将来に向けて、長期的かつ柔軟に対応するために「能力のある人材」を確保しておくには、新卒採用が最も適していると考えるからなのです。

そのため、企業はどうしても新卒採用においては「出身大学名」にこだわります。
ブランド大学の卒業生であれば、今後発揮するであろう「能力」が高いだろうと想定するからです。そして、有力大学出身者がたくさん在籍していることで、自社の成長性や対応能力が高まっているハズだと、安心するのです。

また、「日本のビジネススクールで『人材マネジメント』を学ぼうとする人が、なぜ少ないのか?」という問いにも、答えることができます。
今日の日本のビジネススクールで力を入れて教えているのは、戦略、ファイナンス、マーケティングです。人材マネジメントの授業もあることはありますが、概ねあまり人気はないようです。

その理由は、日本で教える人材マネジメントが、日本企業における「実践」に即していないからだと思います。
ビジネススクールといってもあくまで大学院ですから、教師は研究者が中心です。人材マネジメントにおいても、研究者は先達の欧米のテキストによって研究していることが多いのです。
しかし、前回の記事で述べたように、日本の企業の現場は、欧米の教科書のベースとなっている「戦略→組織→職務→人材」といった流れで動いてはいません。そのため、人材マネジメントの授業を受けても、日本企業の人事の現場で役立つかどうか、疑問に思っている学生が多いのだと思われます。

「昇進=偉い」では通用しない時代

前回解説した「なぜ日本の人事制度の基本は身分なのか?」という問いの答えは「『格付け』が『能力』をベースにしているからだ」いうことになります。
「能力」によって組織内の序列を決めていくと、それは「エラさ(偉さ)」の序列になります。「偉い人」というのは、一般に能力が高い人を指します。その「エラさ」が「名誉」となり「身分」となっていくのです。

一方で「職務」をベースにすると、序列は担当している「仕事の大きさ」によって決まります。しかし、その序列は「エラさ(しんどさ)」の順番であって、それが「名誉」や「身分」に直結することはありません。
海外、特に米国の組織がフラットで上司部下の関係が日本と比べて近いのは、職務をベースにした人事の運用が浸透していて、組織内の人間関係にはあまり影響をもたらしていないからとも言えます。

また、職務をベースに人事を行うと、若い人を「抜擢」して、大きな仕事に就けることも比較的容易になります。企業の中で、これまでだれも経験したことのない「新しい大きな仕事」が発生すると、過去の経験や能力は役立ちません。

イノベーションが重視される今日の社会では、これまでに「無かった仕事」が、社内で創られていく必要があります。
その仕事を誰がするのか?
職務ベースの人事では、能力と過去の実績による「卒業方式」とは異なる「入学方式」の配置が可能になります。まず新しい仕事に配置して、それから「育てていく」というのが「入学方式」です。このやり方なら未経験の若者を、どんどん登用していくことが可能になります。
そうなると「登用と能力」の関係は、希薄になってきます。

最近の日本企業でも、これまでの「能力」ベースの人事から「職務」ベースの人事への移行が始まっています。また、多様な人材を受け入れていくことで、「区分」も序列を伴う「身分」ではなく、単なる「働き方の違い」と受け止められるようになってきました。

「課長」に昇進したからといって、それが「偉い」ことを意味しないのです。
それは単に「仕事の違い」であって、身分の違いではなくなってきたのです。
最近の日本企業の若い人たちの間では、「管理職になりたくない症候群」というのが、広がっていると言われます。
欧米風の「職務基準」の人事管理になじみ始めている若者にとっては、昇進は必ずしも「名誉」ではありません。もちろん、一部の人は仕事の難易度が上がることに「やりがい(内発的動機付け)」を感じています。しかし、多くの従業員が、仕事が大変になることへの「警戒感」を持つように変わってきたのです。

【中島豊】新時代の『人事部』について考えよう

◇中島 豊(なかしま ゆたか)
中央大学ビジネススクール特任教授東京大学法学部卒。ミシガン大学経営大学院修了(MBA)。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了(博士)。富士通、リーバイ・ストラウス、GMで人事業務に従事し、Gap、楽天、シティ・グループの人事部門責任者を経て現職。企業の人事部門での実務経験を背景に、人的資源管理論や人事政策論を専門とする。【著書】『非正規社員を活かす人材マネジメント』『人事の仕事とルール』『社会人の常識-仕事のハンドブック』(日本経団連出版)【訳書】『ソーシャル・キャピタル』(ダイヤモンド社)『組織文化を変える』(ファースト・プレス)

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