日本企業の「昇進=偉い」は、もはや時代遅れ?

中島豊 新時代の『人事部』について考えよう⑥

【中島豊】新時代の『人事部』について考えよう

「年功」ベースの人事制度を作った朝鮮戦争特需の好景気

前回同様に日本企業と欧米企業の人事制度の違いについて解説します。

欧米企業の「職務」をベースにした人事制度の原点にあるのは、一人ひとりの仕事を「定義」し、それを「職務記述書」に落とし込むことです。
これを部署ごと、担当者ごとに作成し、タイミング良くメンテナンスするには、実は膨大な手間がかかります。朝鮮戦争特需以降の好景気によって、会社の業容がどんどん拡大していた1950年代の日本の企業では、仕事の量も対応範囲も急激に拡大し、また質的にも変化していきました。

そんな状況にある企業で、いちいち仕事の定義を見直して「職務記述書」を書き換えることは、ほぼ不可能に近く、人事制度がその当時の会社の状況に、追い付かなくなってしまったのです。
その結果、日々増えていく仕事を「できる人」が「拾って」「こなして」いくしか方法がなかったのです。「能力」のある人に仕事を割り当てていく。このような企業運営を行った結果、日本企業では「職務」という概念が希薄化していきました。
このために、日本の企業のほとんどは、とりあえず社員を「年功」ベースで処遇するようになります。右肩上がりで企業業績が上がっていく経済状況では、「年功」によって社員の処遇を「一律に向上させる」ことを基本とするのに、何ら問題はなかったのです。

この状況では「能力」のある人に、より「難易度の高い仕事」、つまり「出世の糸口」となるような仕事が割り振られる。その結果、そうした人たちは、早く「出世」して、給料も高くなっていくわけです。こうして、社員側にとっても、このような「年功ベース」に「出世」を加味して給料が決まるという、戦後日本独特の人事制度が歓迎されることとなったのです。

「ポスト」不足に対応した「職能資格制度」

しかしながら、朝鮮戦争特需から高度成長の時期が過ぎ、日本経済が安定成長に向かい始めると、社員全員を「年功」で処遇し続けるためのコストが、企業の成長、業績に見合わなくなります。
また、組織の拡大スピードが落ちてきたために、ポストの増加も少なくなりました。
当時は今日と違って社員の平均年齢も若く、役職者もなかなか定年などでポストを明け渡してくれず、「仕事ができる人」でも昇進時期が遅くなってきました。

そこで考えられたのが日本独特の「能力」をベースにした人事制度です。
この制度は「職能資格制度」と呼ばれ、バブル経済崩壊前の1980年代までに、ほぼ全ての日本企業で採用された制度です。

この「能力」を基準とする人事制度の第一の特徴は、「職務遂行能力」(職能)に着目したことです。企業にある「職務」は、その難易度に応じて、いくつかのグループにまとめることができます。そして、それぞれのグループの職務を「遂行」するために必要な、一定の「能力」が必要であると考え、それを「職務遂行能力」と定義しました。

第二の特徴は「『職務遂行能力』は、経験による学習によって開発され、いったん獲得された能力は、失われることはない」と定義したことです。
この制度では、ある程度の時間をかけて到達した「能力」のレベルに応じて「資格」を与えます。獲得した能力は「低下しない」と考えるので、この「資格」は一度付与されると、社員がよほどの非行でもしない限り、失うことはありません。
つまり、この「資格」は勲章と同じ「名誉」なのです。

「昇格」してから「昇進」を待つ「卒業方式」とは?

この「職能資格制度」による社員の配置は、その仕事の難易度に応じた「職務遂行能力(職能)レベル」に到達したと「認定された資格を持った人」の中から、「選抜」されて行われます。社内の仕事(役職)にはあらかじめその役職に求められる職能のレベルが決められています。例えば「課長の役職はXという『資格』が必要だ」というものです。

基本的に役職への登用(昇進)は、資格に到達(昇格)した社員の中から行われるので、この方法のことを「昇格先行方式」、もしくは「卒業方式」と呼びます。
これは、あたかも学校を卒業し、一定の「能力開発が終了」したことが証明されたことをもって、その能力に「相応しい仕事」に就くようなイメージがあるからです。

安定成長期に入った日本企業にとって、この「昇格先行方式」もしくは「卒業方式」は大変に都合の良いものでした。資格が上がることで「名誉」を与え、それをモチベーションにすることで、ポストが空くまで社員の昇進を待たせることができたからです。
また、昇進予備軍をプールしておけるので、予定外の退職などで社内に突然「人材ニーズ」が発生しても、素早く対応することができたからです。

「職能資格制度」は、1980年代の終わりまでは日本の企業の発展を支え、競争力の源泉を生み出してきたといっても過言ではありません。そのため、日本企業、さらには社会全体に、この「能力」をベースにした人事の考え方が深く刷り込まれたのです。

→日本で新卒一括採用が一般的なのには、明確な「理由」がある

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