「美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに」
見出しに掲げたこのフレーズを覚えているだろうか?
1980年に放送されていたフジカラープリントのCMで、樹木希林さんと岸本加世子さんのやり取りで出てきたセリフ。もともとは「美しくない方も美しく」というコピーを「そんなわけないじゃん、そんなの嘘だ!」とかけあって「それなり」とセリフを変えたそうだ。
樹木希林さんは、広告が好きだった人だと思う。生前の言葉の端々から伺えた。
「私が役者で続いてるのは、CMというものがあったからなのよ。いまから55年前に役者をはじめたとき、CMをやる役者なんて下の下だと。芝居が荒れるとか、ちゃんとした役者になれないとか言われて。その中で、全然舞台とか映画とかテレビとか興味がないから、『CMいいじゃないの』って言ったのが私の役者人生のはじまりだから」(『コピー年鑑2016』別冊付録より)
「CMの女王」って誰かが言ったら「いや、女王じゃないよ、皇太后」って。女王って、恥ずかしいから皇太后。よく考えたら「皇太后」の方が偉いんだけど(笑)なんか当たってる気がしてね。良いでしょ?ちゃっかり自分から言う(笑)。そのキッパリとした態度に、樹木希林さんの、人としての「潔さ」がのぞく。
9月15日にご逝去された樹木希林さんは生前、富士フイルムのテレビCMに268作品も出演されていた。当時、フジカラープリントのCMは、年末シーズンに新作が放送されることが多く、樹木希林さんが出演するフジカラーのCMを見ると「あぁ、もう年末なんだなぁ」と実感していた記憶がある。すでに風物詩だった。
樹木希林さんの生前の活躍をしのび、富士フイルムの過去のテレビCMの一部が、期間限定で公開されることになった。時代の一瞬を駆け抜けて、消費されていく運命のテレビCMとしては異例のことだ。
「私の代表作は何かって? 私はね、ないのよ。助演どころかチョイ役、チョイ役って渡り歩く“チョイ演女優”できたもんだから。しいて言えば『海よりもまだ深く』かしら。そこ、カギカッコでくくってしっかり書いといてね(笑)」
→細かいところに集中しないで、ものごとの大きなところを俯瞰するという樹木希林の演技方法