英国のEU離脱(ブレグジット)が佳境を迎えている。EUからの離脱方針をめぐってメイ首相に批判が集まり、与党・保守党内からも不信任案が出される事態となった。かろうじて退任は免れたものの、メイ首相の求心力の衰えは明白。このままいけば2019年3月30日実施のブレグジットは「ハードブレグジット」(合意なき離脱)となり、世界経済にリーマン・ショック級の大きな不安と混乱をもたらす可能性がある。(経済ジャーナリスト 岩崎博充)
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ハードブレグジットが世界経済にもたらす5つの影響
メイ首相は、12月10日~11日に予定していたEU離脱案の英国議会承認の採決を延期した。「このままでは下院の承認が得られない」との判断だが、こうした姿勢には与党・保守党内からも批判が相次いだ。
与党議員による信任投票ではなんとか信任を得たものの、国内は依然としてEU離脱の賛否で割れており、難しい舵取りが続く。仮にこのまま英国の議会の承認が得られなかった場合、メイ首相には4つの選択肢がある。
①EUと合意せずにEU離脱を強行する(ハードブレグジット)
②議会から離脱協定の承認を得て離脱する(ソフトブレグジット)
③メイ首相が退陣し、総選挙もしくは国民投票を再実施する
④EU離脱を中止する
今のところ、最も可能性が高いとされているのは①のハードブレグジットだ。ハードブレグジットになった場合、英国だけでなくEU全域、そして世界経済に対して大きな影響を及ぼす。もちろん日本も例外ではなく、その規模はリーマン・ショック級とも言われている。ハードブレグジットの影響は、大きく分けて5つが想定される。
①変わる貿易ルール
もともとEU域内では関税が低く抑えられており、平均で5%程度と言われている。しかし、ブレグジット後の英国では、「WTO(世界貿易機関)加盟国」のルールに従って、関税や通商条件が決まってくる。
たとえば、自動車の関税などは、ブレグジットが実施された途端に5%から10%に引き上げられると考えられている。トヨタや日産、ホンダなど日本の自動車メーカーは英国内でも自動車を生産しているが、金属関係部品など素材の多くは英国外から調達している。つまり、現在よりも高い関税を払って購入した素材を使い、高いコストをかけて生産した自動車を売却しなければならなくなる。
②英国から生産拠点が流出。雇用も不安定化
ブレグジットによって上昇する関税分を取り戻すために、多くの工場が急ピッチでAI(人工知能)やロボットによる生産へ移管しつつあると言われている。当然、EU域内から英国へ出稼ぎに来ていた安価な労働者も、同時に脱出していくことになる。
「雇用が外国人に奪われる」としてブレグジットを推進していたはずが、結果的にはブレグジットによって、外国人ではなくロボットに仕事を奪われる皮肉な結果になるわけだ。既に多くの外国人が英国から脱出する準備をしていると言われている。英国内の雇用状況が不安定化する可能性が高い。
ハードではなくソフトブレグジットで移行できたとしても、自動車メーカーを始めとした多くの製造業の工場が英国からEUへ移転することになるだろう。関税が上がる部品の調達比率を低くするためだ。
外務省の調べでは、英国に進出している日系企業の数は986社(2017年10月現在)。ブレグジットの影響で上がる関税や、移転によるコストを生産の効率化などで吸収できるかどうかが、喫緊の課題になる。