日本国内で外国人を見かけることはもはや日常となりました。政府は外国人労働者の受け入れを拡大する方針で、ますます外国人とコミュニケーションを取る機会は増えるでしょう。しかし、世界最大の成人英語能力ランキング「EF英語能力指数2018」によると、日本は88か国中49位で「低い英語能力」に分類されています。なぜ日本人の英語能力は低いのでしょうか?英会話講師イムラン・スィディキ先生に理由を聞くと、「発音」を軽視する日本人の悪しき勉強法が浮き彫りになってきました。
英語は発音しないと覚えられないのに、板書ばかり重視する日本人
ーーイムラン先生は数々の生徒に英会話の指導をしてこられましたが、なぜ日本人の英語能力が低いと考えますか?
イムラン:基本的に日本人の方は勉強好きです。本来、勉強はインプットとアウトプットの両方をやらなきゃいけないんですけど、日本人はアウトプットができるようになるまでインプットしたくなる感覚が強いんです。
会社員のプレゼンを例に取りましょう。プレゼンは練習をしないといつまで経ってもできるようにはなりませんよね?でもまずはプレゼンの本を読み、自信が持てるようになるまで実践しない人が多い。小学生の頃だって、漢字はひたすら書いて覚えたと思います。パソコンが普及して漢字を書けなくなった人が多いのも、字を書く機会が減ったから。書かないと忘れるのです。
英語も同じで、ある程度学んだらアウトプットするのが大事なんですけど、英語本や教材を読むだけで終わっている人がほとんどです。本を読むだけでは絶対に覚えられません。
ーーまず文法や単語のおさらいから始める人が多いかもしれません。
イムラン:文法や単語を勉強すること自体はいいんです。でもその文法や単語を使って、話すことを前提に勉強していない。これは日本人特有のことです。
色んな国の生徒さんがいる海外の語学学校だと、日本人だけが喋ろうとしません。たとえば「5分間で『I like』で始まる文を10個作って下さい」と指示を出すと、みんなとりあえず知っている単語を入れて喋る練習をするんですが、日本人は1、2個しかできない。真面目に考え過ぎてしまい、アウトプットの練習でさえアウトプット量が少ないんです。
ーーやはり真面目と言われる国民性の影響が大きいのでしょうか。
イムラン:そうですね。あとは学校教育で板書をする癖がついているのが大きいと思います。海外だと、レッスンで先生が1時間もレクチャーをしたら、生徒さんから批判されます。「英語を学びに来ているのに、レクチャーしているだけで一言も喋っていない」と言われるんです。
でも日本人の生徒さんは真逆です。喋る練習をするために英会話スクールに来ているのに、1時間喋っていると、「今日は喋っただけでした」と言うんです。逆に、1時間のレクチャーでノートをたくさん取っていると、「すごく勉強になりました」と満足する。でも「今習ったことを一つ教えて下さい」と聞くと、ノートを見返さないと答えられない。それでは結局学んでいないのと同じです。
日本人は学校教育での板書の習慣があるから、たくさんノートを取ることが勉強だという感覚が染み付いているんです。
英語の発音が下手くそでも全く恥ずかしくない
ーー日本人でも英語を上手に習得できる人の特徴はありますか?
イムラン:やっぱり口に出している回数が多いですよね。事前に4つか5つくらいの表現を覚えてきて、レッスンでとりあえず発音してみる、という生徒さんは上達が早いです。
以前の生徒さんで、Facebookで知り合った米国人の友人に会いに2週間ほど渡米し、帰ってきたら驚くほどに上達している方がいました。理由を聞いたら、「文法を気にするのは止めました」。以前は正しい文法かどうかが気になって、喋るスピードが遅くなっていた。でも実際のコミュニケーションだと、正しさではなくてスピードの方が重要なんですよね。
たとえ文法が間違っていても、単語だけで大体の内容は理解できます。でもその単語すら言おうとせずに黙って文を考えているから、聞いている方からすればイライラしてしまうのです。それではコミュニケーションが成立しなくなってしまいます。
まずは文法が間違っていてもいいから、とにかく相手に伝えるのが大事。この生徒さんは、米国にいる2週間でそれに気がついたんです。
日本人の方は「正しい文法で喋らないと恥ずかしい」と勘違いしていますが、海外だと「話さない方が恥ずかしい」と思われます。テレビで日本語を片言で喋っている外国人を見て、恥ずかしいとは思わないでしょう。海外だとそれがさらに強くて、たとえばイタリア人の英語の間違えを米国人が笑ったとしたら、その米国人はすごく非難されます。
英語は一度に5文発音するようにしよう
ーーアウトプットをする以外に、英語の勉強法にコツはありますか?
イムラン:英文を「音」で覚えるということでしょうか。日本の受験勉強では、単語を覚えるのが中心です。そのせいで、リスニングでは聞こえてきた単語から文章を推測するという感覚がすごく強くなっています。それが1、2文ならまだしも、5文、6文になるともうわからなくなる。
だから英文を単語の並びではなく、「音」として理解することが大切です。私は「リアル発音記号」という、実際のネイティブの発音がわかるような形を文字にして教えているんですが、これがすごく役に立つと言っていただけます。
「Where do you live?」という文章なら、一つずつの単語で区切るのではなく、「Wher dyu liv?」と単語をつないだ状態で「音」として覚える。その感覚を養うことが大切です。
それと当たり前のことですが、1文だけを聞く練習を繰り返していると、1文だけを聞くことに慣れてしまいます。1文を聞いたら休憩、といった感覚になってしまい、2文、3文を続けられると理解できなくなってしまう。逆に言えば、5文くらいを一度に聞く練習をしていれば、それくらいの長文でも一度に聞けるようになります。
英会話の最小単位はQ&A
ーーTOEICなどの点数が高くても、いざ外国人を前にすると喋れないという日本人は多くいます。
イムラン:英語表現集にありがちなのが、一つの表現だけを載せていて、シチュエーションがわかりづらいことです。たとえば「I have not decided yet(まだ決めていません)」という表現があったとする。それを覚えるのはいいんですが、実際にどういう時に使うかが書かれていないことが多いんです。実際は「週末は何をするの?」とか「ランチは何にするの?」といった質問に対して「まだ決めていない」と答えるときに使うんですが、表現だけで覚えているので、シチュエーションや文脈が想像しにくく、知識だけで終わってしまう。
私は生徒さんに、「会話の最小単位は表現ではなく、Q&Aだ」と教えています。私が監修しているスマホのバーチャル英会話「EnCube(インキューブ)」でもそうですが、レッスンはまず質問から始めます。
「Where do you live?(どこに住んでいますか)」という質問なら、それに対しての「I live in ◯◯」という答え方もセットで教える。そうすると実際に使う場面のシチュエーションが必ずイメージできるんです。
短時間でも発音練習を繰り返せば誰でも英語マスターに!
ーー忙しいビジネスパーソンだと英語の勉強時間を確保するのも一苦労です。
イムラン:そうなんです。だからこそ、毎日短い時間で繰り返し発音の練習をすることが大切です。たとえ1時間のレッスンを受けたとしても、せいぜい最初と最後の5分ずつを覚えているだけでしょう。であれば、1回のレッスンで10分を目安に、一つのシチュエーションについてQ&Aでセットにして覚えていけば、バリエーションはどんどん広がりますよね。10分間のレッスンで一つのシチュエーションであれば誰でも覚えていられますからね。
EnCubeでは、1日に午前と午後の計2回、およそ10分ずつの動画を配信しています。Q&Aでシチュエーションをイメージしながら、やるたびに一つの英会話をマスターしていくようなイメージです。スマホ動画なのでいつでもどこでも、また何回でも反復練習ができるのも嬉しいですね。
ーーこれからの時代はますます英語力が必要とされていきます。
イムラン:生徒さんが口をそろえるのは、「もっと早く英語の勉強を始めておけばよかった」という後悔のセリフです。日本には外国人がどんどん増えてくるので、英語を話す機会が当然増えてくる。その時に後悔しないことが一番です。
英語を話せなくて困らない生活ができる人にとっては、英語は必要ないかもしれません。でも人間は学ぶことや新しい知識を得ることが好きな動物です。学生の頃のようにテストがあるわけではないので、英語の勉強をすることは学びや発見の楽しみにもつながると思います。
◇イムラン・スィディキ
コペル英会話教室校長。セントメリーズ・インターナショナル・スクール、上智大学、上智大学大学院。
2013年に英会話教室「コペル英会話」を設立。mixiの「英語一日一言」では「感動するぐらいわかりやすい」と評判を呼び、YouTubeやメルマガでも「カリスマバイリンガル講師」として注目を集める。
『CD BOOK 超英語思考グラマー』(アスカカルチャー)など著書多数。1976年生まれ。