人工知能「AI」の台頭で奪われる仕事の代表例として挙げられることの多い「税理士」。しかし、国際税務の枠組みにおいてはむしろ、日本の税理士のニーズが高まるとみる向きもある。一方ここ5年間で、税理士試験の受験者数が4割近く減少している現実も。「BIG4税理士法人」の一角を占めるKPMG税理士法人の駒木根裕一代表に、「AI時代」で生きる税理士の未来について聞いた。(Soysauce Magazine Online編集部)
国際税務の枠組み変化で増す税理士のニーズ
――AIの台頭であらゆる仕事のあり方が変わるとされている中、税理士の請け負っていた仕事の大多数がAIによって代替可能であるとの指摘があります。
駒木根:税理士はよく、雑誌などで「AIによってなくなる職業」と書かれたりしていますが、そんなことはないというお話をしたいと思います。KPMGが国際税務を取り扱う税理士法人であるという前提で話をしますが、国際税務のマーケットにおける税理士のニーズは今後、飛躍的に伸びてくると考えています。その背景には、欧米企業と日本企業の税金に対する考え方の違いがあります。
欧米企業の経営者にとって、税金は「コスト」です。彼らは投資家に対してのリターンを最大化することが重要視され、それができないと簡単にクビになります。株価を上げるにしても配当を払うにしても、税金を払った後の利益が大きくないと、還元できない。したがって、従業員の人件費や製造原価をコントロールするのと同じレベルで、税金のコントロールやプランニングも重要な仕事として認識しています。
また欧米では、全世界にある海外子会社も含めた税務リスク管理を国内の親会社がするのが一般的です。企業の税務部門を統括する「チーフタックスオフィサー」や「タックスダイレクター」と呼ばれる役職の地位も高く、経理部長や人事部長と横並びのポジションです。

一方、日本企業の場合、近江商人の「三方よし」(「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方)や、松下幸之助さんの「企業は社会の公器である」という言葉が示す通り、欧米企業と比べて社会性がとても強い。納税は義務であるという認識の下、税金は目標を達成した後に支払うものだという位置づけです。したがって、KPIはだいたいの企業が税引前の営業利益を指しますし、税務部門の位置づけも、経理部の一部であるケースが多い。担当者の仕事も、タックスプランニングではなく、事後処理がメインでした。
しかし、ここ数年で国際税務のあり方は大きく変化しています。欧米の多国籍企業の課税逃れ(BEPS)が問題視されたことをきっかけに、2015年にOECDが新しい国際税務の枠組みを発表しました。それに伴い、一定規模以上の売上がある会社は、全世界の子会社の収入や売上などを事細かに税務当局に提出することが義務付けられるようになりました。この新しい制度下で危惧されているのが、税務リスク管理やタックスプランニングを疎かにし、親会社が海外子会社の税務を管理していない日本や韓国の企業です。このまま放っておくと、各国の税務調査で軒並み叩かれることになるでしょう。
会計事務所にそういった仕事を外注するにしても、国際的なネットワークを持っていないと対応できない。そうなると、KPMGを含めたBIG4にとっては、マーケットニーズはすごく大きい。たとえ申告書の作成が自動化され、それらの業務での税理士の付加価値が減少したとしても、国際税務や移転価格のプランニングができる人に対してマーケットから期待される役割はこれから飛躍的に伸びてくると思っています。