パナソニックがおびえる「あの巨大IT企業」の足音

シリコンバレー舞台「あえての未完成品」で家電の牙城を守れるか

「家電を含めた住空間」で勝負するシリコンバレーのパナソニックβ

「パナソニックβ」とは、様々な部署からトップダウンでメンバーを指名し、その個人が今まで担当してきた仕事を忘れ、シリコンバレーに3カ月間こもって、虚心坦懐、新しい事業を考える、というものだ。3カ月で何ができるかと言われそうだが、思いついたらすぐに試作品をつくってしまうのが特徴だ。参加者は選りすぐりの様々な部署から集まっているので、彼らとの議論を通じて、その試作品に味付けをしていく。

その試作品は最終製品からはほど遠いこともあるようだが、3カ月で目鼻がつかなくてもその後の参加者に引き継ぐことは可能で、シリコンバレーを再訪して実現させるといった選択肢もあるそうだ。いわゆる「社内ベンチャー」を促成栽培的に作り上げようとしているのであろう。言い換えれば、過度な「パーフェクション文化」から、「不完全を寛容する多試行文化」への転換を目指しているのである。それが冒頭の津賀社長の発言に現れたのだ。

パナソニックの創業100周年イベントで講演する津賀一宏社長(同社HPより)

「パナソニックβ」は、当面のターゲットを「住空間」としている。「家電」という狭い概念ではなく、「家電を含めた住空間」を創造しようという発想だ。そもそもパナソニックは旧松下電工時代から「パナホーム」という住宅を提供してきた歴史がある。それに旧松下電器からの伝統ある「家電」を融合すれば、社内にいながら幅広い領域で住空間を企画できる。

そのプロジェクトの一つが、家電などのホームオートメーションの中心になるプラットフォーム「HomeX」だ。IoTを活用して他社製を含めた家電からデータを集め、利便性の高い機能を提供するサービスを目指している。

蔓延する「大企業病」を治せるか

この「パナソニックβ」のメンバーは、シリコンバレーに来ることで大きな教育効果を得られることはもちろん、元の職場に戻ってからもその職場に影響を与え、社内改革が進められるという副産物も与える。「今までの延長線上での戦い」に終始している職場の各人に、「このままでは未来がない」という危機感を浸透させることにもなるのだ。これをパナソニックでは、「大企業病を漢方薬的に治す」という表現を使っている。

「パナソニックβ」からは今のところ、「これ」といったモノやサービスは生み出せていないし、仮に出たとしても直ちに今の家電製品に代わるほどの売上や利益をもたらすということにはならないだろう。ただし、このような試行錯誤を繰り返すことでこそ、「イノベーションのジレンマ」に陥らず、新たな核となるモノやサービスを生み出す可能性を創出する。それが「巨大企業」の侵食に立ち向かうためのカギである。

中村 吉明(なかむら・よしあき)中村吉明専修大教授
専修大学経済学部教授。経済産業省で産学官連携やイノベーションに関する実務と研究に携わり、環境指導室長、立地環境整備課長などを経て現職。著書に「AIが変えるクルマの未来」(NTT出版)など。

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