10月末に行われたパナソニックの創業100周年イベントで、津賀一宏社長は「あえての未完成品」を世に出すと言及した。練りに練った完成品ではなく、更新し続けることを前提にしたモノ、サービスを市場に出すという宣言だ。この発言の背景には、日本の総合電機メーカーを脅かす「あの巨大IT企業」の戦略がありそうだ。(専修大学経済学部教授 中村吉明)

復調の兆しがみられる「日の丸」家電
高品質で安価な韓国、中国製の家電に押され、日本の総合電機メーカーが劣勢に立たされていると言われて久しい。家電に限らず、日本製品全般が「技術だけではダメ。消費者ニーズに合う製品を作っていない」と批判され続けてきた。それらの指摘を受けて、日の丸家電を擁する総合電機メーカーは試行錯誤を繰り返し、最近ようやく復調の兆しがみられている。
例えばパナソニックは、センサー、電池などの車載製品や、工場の自動化に使う機器などがけん引し、2018年3月期連結決算の最終利益は前期比58%増の2,360億円と、08年3月期(2,818億円)以来の高水準となった。
巷の評判では、家電から車載に移行、すなわち、車載事業を中心に据え、「BtoC」から「BtoB」への移行により収益が安定化した、とされている。確かにそれも一理あるが、「元祖家電メーカー」の意地でBtoC、すなわち家電部門でも安定した利益を生み出しているようだ。
エアコンを始め、液晶テレビ、洗濯機、掃除機など、IoTを活用しつつ、新たな付加価値を提供することに成功している。パナソニックを含めた日本の総合電機メーカーは、軸足を家電以外にシフトしつつ、主力製品としてではないが、相変わらず家電でも安定した収支を得ようと試みているようにみえる。
中韓企業以上に意識する、「ある巨大IT企業」の存在
日本の総合電機メーカーにとって今後、家電製品の競争相手はどこになるか。キャッチアップして、追い越そうとしている(あるいは追い越された)韓国や中国の企業だろうか?国内外で独自色を出しているダイソンやバルミューダなどのベンチャー企業の成長も著しく、放ってはおけない存在だ。彼らは現在も、そして今後も強敵であり、引き続き競争相手として切磋琢磨していくだろう。
こうした厳しい状況にある総合電機メーカーには、「集中と選択の戦略」として「選択」側に回り、家電製品から撤退するという選択肢もある。利益以上の特別な「何か」を守るため、あくまで家電でのリカバリーを目指す企業もあるが、白物家電の国内生産から完全撤退するシャープや自社テレビの国内販売を終了させる日立製作所を見れば、「選択」する戦略を選ぶのにも十分にうなずける。
だが最近の総合電機メーカーの動きを見ていると、生き残りのために中韓企業やベンチャー企業と対峙するということ以上に、もう少し遠い目線で経営戦略を立てているような気がする。その目線を追うと、「あの巨大企業」が浮かび上がってくる。