人は何のために働くのか:人事管理の根本

中島豊の「新しい人事部」の作り方 企業は「人」でできている【その3】

金銭のみの判断を「合理性」とする、古い経済学の前提から離れる

古典的な経済学では、合理性は「金銭的な見返りが最大化すること」と定義されます。つまり、お金が「全て」だと考えるのです。「愛情はお金では買えない」というような反論に対して、経済学は「愛情に対する対価(金額)が十分ではないからだ」と考えます。
確かに「別れたら、300万円払う」と言われても、恋人と別れることは出来ないかもしれませんが「3億円払う」と言われたら、多くの人の態度は変わるでしょう。

しかし、そうした古典的な経済学が述べる「合理性」というものは、実は個人が手にし得る「限定的な情報」に基づいて判断されるものなのです。「全体」や「客観」という点で判断すると、本当は「不合理」となるかもしれない「限定的な合理性」なのです。

例えば、先の3億円の件でいえば、もしその恋人と一緒になることで、後々、5億円の経済的な見返りがある事が分かっていれば、判断は違ってくることでしょう。

このように書くと、読者の皆さんはすぐに気付くと思いますが「完全な合理性」は、あらゆる情報を全て把握した上で判断する必要があり、神様でも無い限り「完全な合理性」というものは成り立たないのです。
そのため、近年の経済学では、人間は「自分の持つ限られた情報」に基づいた「限定合理性」に基づいて行動する存在であると、考えるようになってきています。

さまざまな「限定的な合理性」を持つ人たちで、会社はできている

その「限定合理性」が普通の人にとっては、価値判断の基準になるために、個人の価値観や行動に違いが生まれ、それが組織の「多様性」に繋がっているのです。

人間は「社会的な動物」と言われることもありますが、それは人間が他人を通して物事の多くを学ぶためです。私達は他の人から見聞きしたことで、社会を学び、生きていくための知識を得ていくのです。
そのため、生まれ育った周囲の「環境」によって、獲得していく「情報」が異なっています。「多様性」とは、言い換えれば「環境」によって生じた、一人ひとりが保有している「情報」の違いです。そして多様な人々からなる社会や組織の中で「共通な基準」を保つためには、人びとの間で持っている「情報」の差を少なくしていくこと、つまり「情報格差」の是正が必要になるのです。

人事管理の根本は、人間の「限定的な合理性」を理解することです。
多様な人が「多様な合理性」をもつのは、一人ひとりが持っている「情報」が違っているからであるとすれば、そうした人々が「腹落ち」(=納得)して、意欲を持って自律的に働いてもらえるようにするには、経営陣は社員に対して、可能な限り「情報」を開示し、自らの「想い」や「価値観」を共有して行く事が必要となるのです。

確固とした「経営理念」を構築し、組織に「浸透」させていく事が大切だ、と言われるのは、「限定的な合理性」を持つ、社員一人ひとりの力を自律的に発揮してもらうための「第一歩」だからなのです。

第四回 本当に、まだ「人事制度」が必要ですか? はコチラ

◇中島 豊(なかしま ゆたか)
中央大学ビジネススクール特任教授東京大学法学部卒。ミシガン大学経営大学院修了(MBA)。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了(博士)。富士通、リーバイ・ストラウス、GMで人事業務に従事し、Gap、楽天、シティ・グループの人事部門責任者を経て現職。企業の人事部門での実務経験を背景に、人的資源管理論や人事政策論を専門とする。【著書】『非正規社員を活かす人材マネジメント』『人事の仕事とルール』『社会人の常識-仕事のハンドブック』(日本経団連出版)【訳書】『ソーシャル・キャピタル』(ダイヤモンド社)『組織文化を変える』(ファースト・プレス)

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