宝くじで大金が当たった社員が辞めない会社を作るには

中島豊 新時代の『人事部』について考えよう③

【中島豊】新時代の『人事部』について考えよう

宝くじ当選で「辞める!」と社員は言い出すのか?

「If she won lottery…」(もし、あの人が宝くじに当たったら・・・)という言い回しがあります。これは外資系企業で、主要な人材が万一退職してしまった時に備える「後継者計画」(サクセッション・プラン)を作成する時に、良く使われる言葉です。以前は「もし、バスに轢かれたら・・・」という言い回しを使うことが多かったのですが、これはあまりに「不適切な表現」と思われるようになったのでしょう。

「あの人が万一、宝くじに当たってしまうと会社を辞めてしまうから、後任となり得る人材を、予め指名して育成していこう」という事で作られるのが「後任者計画」です。
この「人材のリスク管理」の詳細は、またの機会に譲りますが、今回は「宝くじが当たって大金が手に入ると、人々は本当に働かなくなるのか?」もしくは「人は何のために働くのか?」についてのお話しです。

確かにお金は、人々の行動に何らかの影響を与えます。伝統的な経済学は「お金で買えない物はない。すべての物は、金銭的な価値に置き換える事ができる」という前提を置きました。そして、働くこと、つまり「労働」については、キリスト教、特にカトリック(旧教)の世界で神から与えられた罰であると考えます。最初の人間は、神が禁じた木の実を食べたために楽園から追放されて、苦労して働きながら、ついには死する運命に至ったと旧約聖書は書いています。そのため、生きていくために必要十分なお金が手に入れば苦労して働く必要はない、つまり仕事を辞めるだろうと考えるのです。

しかし、お金が全てなのでしょうか?働くことは苦しみなのでしょうか?人間はお金のためのみに働くのでしょうか?

働く理由は「ひとそれぞれ」

この点について、1924年から32年まで米国のシカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた、仕事の生産性やモチベーションに関する一連の実験(ホーソン研究)は「金銭的な報酬よりも、人間関係が人々の生産性に影響する」ことを明らかにしました。
また、キリスト教でも、マザー・テレサが「一切れのパンではなく、多くの人は、愛に、小さな微笑に、飢えているのです」と言っています。

「安全で健康的で、文化的な生活」を実現できる程度の「就労環境」が整ってさえいれば、人々は「日々働く」ということに、様々な「人生の意義や目的」を持つようになります。同僚と伴にいて時間を共有すること、他者から頼られること、さらには自分なりの目標を達成して自己実現を図ることなど、働く理由は本当に多様です。

つまり、企業で働く人々が多様になればなるほど、「何のために働くのか?」という問いの答えも多様になります。けれども、そこに共通しているのは、働く各々の人が、それぞれの理由に「腹落ち」している事です。「腹落ち」しているのは、各人がとりあえず現状を「合理的」だと考えているからです。この点では、確かに人間と言うものは「合理的な存在」なのです。

固定ページ:

1

2

月間人気記事ランキング

  1. 登録されている記事はございません。

連載・特集

松下幸之助

PR

  1. EnCube(インキューブ)の効果は嘘?日本人が英語を話せない本当の理由
  2. 「転職させない」転職エージェントが考える真のキャリアアップとは?
  3. もしドラ 村瀬弘介 もし現代の経営相談をドラッカーが受けたら

《絶賛販売中!》Soysauce Magazine 創刊号

ソイソースマガジンオンライン
PAGE TOP