【松下幸之助】月に100時間残業しようとも、「感動」させれば社員はついてくる

絶対にクビを切らない「社員は宝」の精神

「社員の家族の生活と、命を考えているのか」

私は経営者時代、社員のクビを切ること、すなわちリストラをしたことがありませんでした。それは、松下さんの「社員は宝」という考え方の影響を強く受けていたからです。

あるとき、松下さんから「キミんとこ、いま、社員は何人になったんや」と訊かれたことがありました。当時社員は約250名ほどでしたから、そのように答えると、松下さんが、「そうか、1000人か。多くなったな」と呟くのです。おや?聞き間違えていると思った私は、再度、「いや、250人です」と言うと、松下さんは、私の顔を凝視して、「キミ、社員の家族のことは考えておらんのか」。返事に窮していると、さらに「社員の家族の生活を考えておらんのか。社員の家族の命のことは考えておらんのか」と続けました。当時は4人家族が標準世帯でしたから、松下さんが「250×4=1000人」という計算の元に先程の発言をしたのだと、すぐに理解しました。

この話をされたときの「感動」は忘れることが出来ません。「松下さんは、そこまで考えて経営をしているのか!!」と「感動」するとともに、私の経営者としての未熟さを痛感したものです。

そういうこともあって、社員の給料は松下電器(現Panasonic)の同期社員よりも10%高くしました。もちろん業績が順調に伸び、利益も上がっていたからそのようなことが出来たのですが、社員は大いにやる気を出してくれました。

人の採用については、松下さんの指示もあり、相当丁寧に取り組みました。「採用する人は慎重に選べ。しかし、安易に人を切り捨ててはいけない」。事業を拡大していくときも、私は幹部に、「人を入れるより、PCを入れよ」と指示しました。当時の出版業界では珍しいと思いますが、全社員に一台ずつPCを貸与して、徹底的に社員数を抑えることに努力しました。そして松下さんの言う「社員は宝」という思いで、社員ひとりひとりを大切に考えていたことを思い出します。

社員を自殺に追い込む経営者に、経営者たる資格なし

最近よく、社員が鬱になったり、ノイローゼになったり、ときには自殺したりしたというニュースが報じられていますが、本当に気の毒だと悲しくなります。事情は様々でしょうが、大抵は社長や上司にその責任があるのではないかと思ったりもします。

往々にして、社長が社員を、上司が部下を「感動」させていないということに尽きる。社員を大事にせず、人間としての存在を軽視しているということに尽きるのではないでしょうか。とりわけ、「人間大事の哲学」を確立し、「人間から出発する思考」をしていた松下さんを23年間見続けた私は、このような思いを強く持つのです。

「社員を鬱にする、まして自殺に追い込むような経営者は、経営者たる資格はない」。こう断言しても言い過ぎではないように思うのですが、いかがでしょうか。

◇江口 克彦(えぐち・かつひこ)松下幸之助
1940年2月1日、名古屋市生まれ。松下電器産業入社後、PHP総合研究所へ異動。松下幸之助の側近として23年間過ごした。2004年に同研究所社長に就任し、09年に退任。10年から参議院議員を1期務めた。松下に関する著書が多数あり、講演にも定評がある。

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