日本人はいつになったらノーベル経済学賞をとれるのか?

日本人で最も受賞に近い清滝信宏氏

ノーベル賞
清滝信宏氏(キヤノングローバル戦略研究所ホームページより)

もちろん日本の経済学者たちには素晴らしい貢献をした人、またリアルタイムに構築している人たちも多い。例えば、18年の受賞者であるポール・ローマ―教授(ニューヨーク大学)とウィリアム・ノードハウス教授(エール大学)は、成長理論の功績を評価されての栄誉だった。しかし、14年に亡くなった故・宇沢弘文が両教授と同じラインでの研究として先駆的な貢献を成し遂げていたことは国際的にも自明である。宇沢が生きていれば同時受賞も可能だったかもしれない。

今、日本で最もノーベル経済学賞に近いと言われている清滝氏は、わかりやすく言えば、「実体経済と金融機関などの信用との関係」を分析した。比喩的に言えば、こうだ。色々な人が株などの多様な資産を持っていて、投資を行っている状況で、「俺はお前の株を持っている」「君は私の株を持っている」というように、お互いが株を持ち合っているとする。そのどちらか一方の経済状況がおかしくなると、影響がお互いに卓球のラリーのように跳ね返ってくる。一人の小さなショックが二人、三人と増幅して広がり、結果として全体に波及してしまう。これにより、なぜギリシャのような経済的な小国における財政破綻が、「ユーロ危機」あるいは「ギリシャ危機」などとして全世界的に波及するのか、ということを説明することが可能になるのだ。

清滝氏の貢献は大きく3点ある。一つは、現在のマクロ経済学(経済を一国レベルでとらえる学問)の基礎ともいえるニュー・ケインジアンモデルを、元IMFのチーフエコノミストでもあったオリビア・ブランシャール教授(ピーターソン研究所)とともに構築したことである。二つ目は、物々交換と貨幣との違いとその相互関係を、ランドール・ライト教授(ウィスコンシン・ビジネススクール)と共に開発した点である。そして、ジョン・ムーア教授(エディンバラ大学)とのマクロ経済学に関する貢献は、現代の世界経済を分析するときにきわめて重要な視点を持っていることである。

今紹介した三つの貢献のうち一つだけでも、清滝氏は十分にノーベル経済学賞の栄誉に値する。日本人がノーベル経済学賞をとるチャンスは十分にあるのだ。

日本の経済学者は日本経済を真剣に考えているか?

ただし、あえてここで言いたいのだが、清滝氏を含めて日本の経済学者たちはあまりにも実際の経済について無理解あるいは無関心である。国際的にも名がある人たちを含めて、日本の「財政危機」を解消するために消費増税を主張する人たちが圧倒的多数だった。清滝氏も最近、日本経済新聞のインタビューで「日本の財政危機が突然に起こるかもしれない」として警鐘を鳴らしていた。もちろん日本の「財政危機」が事実であればいい。だが日本の「財政危機」という事実は、事実を検証していくと存在しないのだ。

例えば、最近報告されたIMFの財政モニター報告書では、日本の純債務(資産から債務を引いたもの)が、絶対額としてもまた経済全体の比率からみてもほとんどないに等しいことを明らかにしている。つまり、資産と負債がちょうど良いバランスにあるのだ。しかも嘉悦大学の高橋洋一教授を中心に、私たちはその純債務自体の縮小が、アベノミクスによる大規模な金融緩和によってもたらされたことを検証してきた。

清滝氏は日本経済新聞のインタビュー(https://www.youtube.com/watch?v=4ljUIQrwvTw)で、日本の家計の貯蓄率が数十年にわたる高齢化によって継続的に下落していき(つまり日本国債の買い手に海外が占める割合が逓増する)、そのことで財政赤字を続けることで、海外の日本国債への安全性に赤信号が灯る可能性を述べている。

この清滝氏の認識では、「財政赤字」が問題視されているが、先のIMFレポートによれば、その金額はわずかであり、また我々が指摘しているように縮小傾向にある。そして大規模な金融緩和も無限には続かない。なぜなら、インフレ目標を達成し、経済が安定化すればそのような大規模な緩和を続ける必要性がないからだ。

清滝氏もインタビューでは、財政危機の回避策としてインフレ目標政策を挙げている。しかし、「財政危機」を煽ることが今の日本では消費増税の主張に結びつくという「政治経済的な側面」があることや、我々の現実生活の一面も考えに入れることが、経済学者に求められる政策センスではないだろうか?なぜなら、14年の消費増税(5%から8%)がそうだったように、19年10月に予定されている(法的には設定されているが、政治的にはまだ最終決定はされていない)消費増税こそが、本当の経済停滞やその裏面での財政危機をもたらすかもしれないからだ。清滝氏は、「財政危機」よりも「消費増税の危機」こそ説くべきであったのではないだろうか?

ノーベル経済学賞を日本人がとることになれば、それは大層めでたいことだろう。だが、私はそれよりも日本経済や日本人の暮らしが良くなる方策を、日本の経済学者が真剣に考えているかに疑問を持っているのである。

◇田中 秀臣(たなか・ひでとみ)田中秀臣
上武大学ビジネス情報学部教授
早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。国土交通省社会資本整備審議会委員、内閣府経済社会総合研究所客員研究員など歴任。「日本経済は復活するか」(藤原書店)、「デフレ不況」(朝日新聞出版)、「AKB48の経済学」(朝日新聞出版)、「昭和恐慌の研究」(東洋経済新報社)など著書、共著多数。

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