日本人はいつになったらノーベル経済学賞をとれるのか?

毎年秋になると、日本ではノーベル賞の話題がメディアを賑わす。2018年は本庶佑・京都大学特別教授が医学生理学賞を受賞した。日本は21世紀になってコンスタントに受賞者を輩出していて、国民として誇らしい気持ちになる。ただし、1949年に湯川秀樹が物理学賞を受賞して以降、日本人では米国籍取得者を含め計26人がノーベル賞を受賞しているが、唯一縁がない分野がある。それが経済学賞だ。(経済学者 田中秀臣)

ノーベル賞

正確にはノーベル賞ではない経済学賞

ノーベル賞といえば、毎年のように文学賞(18年はスキャンダルで中止)に村上春樹氏の名前がとりざたされている。その村上氏ほどではないが、ここ数年は経済学賞でも、ある日本人の受賞への期待感が高まっている。清滝信宏・米プリンストン大学教授である。

この数年、清滝氏の受賞に備えて私もテレビや新聞からコメントの依頼を受けることがある。ましてやご本人は、経済学賞の発表前は騒がしいこと極まりないのではないかと他人事ながら心配してしまう。

さて、「日本人はノーベル経済学賞をとれるか?」と問われれば、私は「イエス」と答える。そして対象者は、清滝氏その人である。理由を解説する前に、そもそもノーベル経済学賞とは何か、から簡単に解説する必要があるだろう。

事実の問題として、ノーベル経済学賞は正確にはノーベル賞ではない。正式名称は、「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」という。つまり、スウェーデンの中央銀行(リクスバンク)に由来する賞である。経済学賞はノーベルの遺言にはなく、リクスバンクが創立300年を記念して新設を働きかけ、1969年に授与が始まった賞だ。ノーベル賞と明白にわけて扱う人たちもいて、「ノーベル賞の権威にただ乗りしている」と批判する声もある。

ノーベル経済学賞はまた、その受賞基準でもしばしば批判の対象となっている。受賞者は市場原理主義的な人たちばかりで、特に米国のシカゴ大学の出身者・関係者に多いという批判だ。トーマス・カリアーの『ノーベル経済学賞の40年』(筑摩書房)や、スウェーデン人経済学者アブナー・オッファーとガブリエル・ソダーバーグの『The Nobel Factor』(未邦訳)がこの種の批判の代表と言える。

カリアーによれば、経済学賞は、市場メカニズムを過度に重視している経済学者を積極的に選び、またシカゴ大学など特定の大学に受賞者を集中させてしまっている。もちろん特定の大学に受賞者が集まってもそれ自体が悪いわけではない。ただしカリアーは、シカゴ大学を中心にした経済学が、現実世界をうまく説明していないか、あるいは多くの場合は弊害すらもたらしていると断罪している。特にミルトン・フリードマンやその伝統に立つ経済学者たちの考えは念入りに批判されている。

オッファーとソダーバーグもまた、カリアーと同様の立場に立つ。加えて彼らは、なぜ市場メカニズムを偏重する経済学者が受賞者に多いのか、その「真犯人」としてアサール・リンドベック教授(ストックホルム大学)を名指ししている。リンドベック教授は、80年代から90年代初めにかけてのスウェーデンの経済的低迷を一連の構造改革(民営化など市場メカニズムの構築)によって導いた知識人として著名である。また貨幣論やインサイダー・アウトサイダー理論として知られる失業問題の解明でも国際的な貢献を残している。

そのリンドベック教授は、スウェーデン王立科学アカデミーの一員として、経済学賞の始まった1969年から関わっていて、80年から94年の間は、ノーベル経済学賞の選考委員会の議長として大きな権力を持っていたとオッファーとソダーバーグは指摘している。実際に、リンドベック教授が議長を務めた期間中、受賞者の8割近くはシカゴ大学に勤めていた。その後、この市場メカニズム「偏重」路線が確立し、今に至っている、というのが、オッファーとソダーバーグの指摘であり、これはカリアーとも同じ認識だろう。

もちろんオッファーとソダーバーグ、そしてカリアーの批判の方こそ「政治的」な見解だという批判もある。だが、世界の経済学が多様性に満ちていることを考えると、確かにノーベル経済学賞は現在の経済学の限られた立場の人たちを対象としているという批判は当たっているかもしれない。

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