デジタル広告の急成長のなか、未だに最大の広告メディアであるテレビ。
そのCMにはさまざまな「世間の事情」が詰まっている。
テレビCMには大きな広告費が必要となるだけに、大人のさまざまな思惑と狙いが反映されていると考えて良いだろう。現役CMディレクターの遅塚勝一が、テレビ番組やCMの背景を読み解きます。
郊外パチンコ店のイベントに中村雅俊が登場する日
強烈な印象があった。郊外のパチンコ屋の営業チラシ。
なにげなく眺めていたら「〇月×日、中村雅俊さん御来店!」の告知が。中村雅俊がパチンコ屋で何をするんだろう?軽いショックと同時に、元気な業界のパワーを感じたもんだった。
そこには何か割り切れない「虚視感」があった。
「一番嫌いなCM!」「思わずチャンネルを替える!」「ダサい!」「見たくない!」と口汚く罵られる反面、「やられた!」「良くできたCM」「クセになる」「だーいすき??」と、その強烈なインパクトで「賛否両論」を呼ぶCMがある。
それが「ハズキルーペ」の一連のCMだ。
現在は4作目、いずれも有名タレントを起用しているが、作品を重ねるごとに、内容は「ねじれたハイテンション」へとエスカレートし、バブルと世知辛さが入り混じった「独特の世界」を形成している。
「ハズキルーペ」の初代CMは石坂浩二が出演。
内容は、趣味であるプラモデルを作る姿で登場するもの。石坂さんのCMは細かいパーツがよく見えると、ストレートに商品の魅力をアピールし、静かなトーンの「機能を訴求」する落ち着いたCMだった。
ところが、第2弾からは「具合がおかしく」なる。娘と豪華なディナーを楽しむダンディな父親、舘ひろしという「設定」なのだが、花火の鮮やかに光るレストランで「娘」の生まれ年のワインをプレゼントしたり、ナイトシーンでバスローブ姿を披露したりと「パパ」の響きが別の「パパ」に見える「怪演」ぶりでネット上でもざわめきが。
そして第3弾では、ついにハリウッド俳優・渡辺謙を起用。CM冒頭から「世の中の文字は小さすぎて、読めないっ!」と凄い形相で叫ぶケン・ワタナベの『ラストサムライ』を思い出す大迫力!恐い。
そして東大卒タレント菊川怜がミニスカのお尻でハズキルーペを踏み「ハズキルーペ、だーいすき!」と笑顔でハートマーク&ウインクするという「温度差」が妙に話題となる。
さらに9月20日から放映開始した新作第4弾では、当たり役『黒革の手帖』を連想させる高級クラブのママに扮した女優・武井咲が主役であり「産休後」初復帰作となっている。常連客役に小泉孝太郎(本当は進次郎を使いたかったのでは?)と、再び舘ひろしが、またもやワインがらみでカメオ出演しているのだ。
孝太郎の「謙さんごめんなさい!」のセルフパロディシーン、そしてホステス四人衆の、もはや「お約束カット」となった「お尻踏みつけシーン」は、破壊力も4倍の大増量!(それでもハズキルーペは壊れない)
どこまでエスカレートするのかこのシリーズ、ハズキルーペのCMがもう変!キャスティングも演出も、なにやら「悪魔の天才の所業」なのだ。