【インヴィニオ代表 土井哲】デキるビジネスパーソンへの「自分開発講座」
仕事に臨む「マインドセット」で成果の品質は変わる
前回、「行動心理学における氷山モデル」を示し、人が行動を左右する根源が「動機」であり、その動機は25歳くらいまでに固まってしまって、なかなか「変容しない」ということをお話しました。第二回では、動機や性格特性の上にある、「マインドセット(意識・意欲・心構え・価値観)」について解説していきます。
「動機」の一つに「切迫性」というものがあります。目の前に何らかの仕事が溜まっているのが嫌で「早く片付けたい」という欲求です。その一方で「慎重性」というものも「動機」のまた一つなのです。これは、その名の通り「慎重にものごとを進めたい」という欲求であり、この「慎重性」が高い人は、一つ一つ確認をしながら着実に物事を進めようとします。
では「切迫性」が高くて「慎重性」が低いとどうなるか?
そうです、せっかちでどんどん仕事を片付けようとするのですが、次から次へとミスを連発するということになります。
銀行に入行して1年目、私は預金課に配属されたのですが、最初に任されたのが、機械の前に座って、預金通帳に出入金の記録を印字するという仕事でした。お客様が通帳を持ってきて、窓口の女性に通帳を渡してお金を預けたり、引き出したりするのですが、私が入社した銀行では、窓口の女性から通帳と伝票を受け取って、通帳に金額を打ち込むのは新人の仕事でした。
作業はいたって簡単で、現金の入金の取引であれば、通帳を左手に持って、右手でキーボード上の「現金」ボタンを押し→「入金」ボタンを押し→「金額」を入力して、通帳の最新のページを開いてプリンターの挿入口に入れて「完了」ボタンを押す、というだけ。
通帳はそのままプリンターに吸い込まれ、金額が印字されて出てくる、という流れです。
「切迫性」が高くて「慎重性」が低い私は、ゼロを一つ多く打ってしまったり、通帳を上下逆さまに機械に挿入してしまったり、入金と出金を間違えたりして、最初の1ヶ月くらいは、1日平均2回はミスをし、夕方毎日「始末書」を書いていました。
当時私の上司であった女性係長からは「土井さん、東大まで出たのに、なんでこんな簡単なことができないんでしょうね」とよく言われました。「行動心理学」や「動機理論」などについて、まったく知識がなかった私は、上司からそう言われて「なんでできないんだろう・・・」と自分を情けなく思っていました。
「なぜ簡単なことができないのか?」
現在であれば、開き直るつもりはありませんが、理論的に説明できます。私の「動機パターン」が、そのような行動を引き起こしていたのです。
さて、毎日始末書を書いていれば当然、「このままではまずい」「なんとかしなければ」「明日はミスをしないようにしよう」と思います。
これが「意識」や「意欲」であり、「マインドセット」です。
「動機」は変えられなくても、マインドセットを変えれば「成果」は変わる
自ら「自分の短所」を意識することで、「動機」そのものは変えられなくても、行動レベルでは修正を行うことができます。実際私も、どんなにお客様が多い時でも「完了」ボタンを押す前にもう一度確認する、ということを徹底したことで、ミスを減らすことができました。
残念ながらゼロにはなりませんでしたが。
ここで重要なのが「このままではまずい、なんとかしなければ」と思うか否かです。
自分自身の現状(=簡単なことでミスばかりしている)や、そこから導かれる近未来(=あいつは使えないという評価が職場で形成される)を「認知」したので「行動」を変えよう、という「意識」が生まれたのです。
「氷山モデル」で説明すると「動機」に基づいて自然に「行動」した結果、ミスを連発するという、マイナスの「仕事の成果」が生まれてしまい、そのことを「認知」したことで「マインドセット」が変わって、意識して「慎重に行動」する、という「修正」が行われたわけです。
ここで注目して欲しいのは「知識」や「スキル」のレベルが上がったわけでもないのに、「マインドセット」が変わったことによって、仕事の成果の質が「改善」されたというところです。
この一見「当たり前」にみえる「成果→認知→マインドセット」の連鎖ですが、実は必ずしも当たり前ではないのです。というのも、人の「認知」には「歪み」があることが少なくないのです。
例えば、マイナスの成果が起こっているにも関わらず、「それは自分のせいではない。逆さまに通帳を入れても、それを感知できない機械が悪いのだ」というように自分以外に原因を求める人は、自分の行動を変えようとしません。
みなさんの周りにも「自分は悪くない。それは〇〇のせいだ」と「他責」マインドの強い人がいるのではないでしょうか。