「働き方改革」や「生産性の向上」というワードが挨拶代わりになっている昨今。多くの企業が、生産性の向上や離職率の低下を目的に、様々な工夫を行っています。「働き方改革」は「休み方改革」でもあるという見方も定着してきました。その上で、長くドイツで勤務していた私は思うのです。休暇を自立的に考え、取得する風土や文化が定着すれば、日本人はもっと幸せになるのではなかろうか、と。(日独産業協会特別顧問 隅田貫)

休暇は「取得させていただくもの」ではない
「働き方」と「休み方」は表裏をなす、いわば余事象のような関係です。「休み方改革なくして働き方改革なし」とも言えます。厚生労働省が2017年3月に発表した「働き方・休み方改善取組事例集」では、経営者の行動を促すものから会社全体のルール作り、中間管理職の心得に至るまで、企業の取り組みについて様々な角度から分析・提言がなされています。特に「長時間労働は仕事効率の低下を生み、健康障害リスクを潜在させる」というくだりは、休暇の必要性を端的に表しています。
しかし、その上で敢えて私は思います。休暇のあり方について、もっと働く側が自主的に考える必要があるのではないでしょうか?
日本における「有給休暇」や「特別休暇」は依然として、働く側にとって「取得させていただくもの」だという認識があります。
「来週の金曜日に有給を取得させていただいても宜しいでしょうか」
「先日は休暇をお許しいただきありがとうございました」
上司とこのようなやり取りをした経験のある人は少なくないでしょう。
休暇の取得状況を人事評価の対象とすることで、積極的な休暇の取得を促す会社もありますが、そもそも休暇は「奨励されて」取得するものなのでしょうか?
ビジネスの世界ではよく、「仕事を自分事(じぶんごと)にせよ!」と言われることがあります。休暇の取得や休日の過ごし方についても「自分事」であるという意識が定着すれば、初めて「仕事」が「自分事」になると言えるのではないでしょうか。
ドイツの有給取得率はほぼ100%
私が20年近く仕事で滞在したドイツという国は、休暇の取得という意味でも代表的な先進国です。ドイツでは、1963年に施行された連邦休暇法(Bundesurlaubsgesetz)により、就業者は年間最低24日の有給休暇が権利として保障されています。実態としては、多くの企業が年間30日の有給休暇を与えています。
権利としての有給休暇日数は、日本でも繰越運用を適用している企業などでは30日近く付与しているところもあります。しかし、ドイツの休暇事情が日本のそれと大きく異なるのは、その取得率がほぼ100%である点と、病気休暇がこれに含まれない点です。
ドイツにおいて、私は日本企業の駐在員としても、ドイツ企業の本社社員(唯一の日本人でした)としても勤務経験がありますが、ドイツ人の同僚は皆休暇を100%取得していたように思います。一度にまとめて3週間休むというのも決して珍しくありませんでした。
普段の働き方も効率的と申しますか、残業はほとんどなく、午後6時を回る頃には大半の社員が帰路につきます。それでいて、労働生産性は日本の1.5倍近くもあるのです。
以下の表をご覧ください。
時間あたり労働生産性の日独比較
「労働生産性の国際比較2017年度版」(公益財団法人日本生産性本部)
日本 46.0 ドル ドイツ 68.0 ドル
「しっかり働いて、しっかり休む」のではなく、「しっかり休んで、しっかり働く」のがドイツ流です。