【松下幸之助】「3,000台じゃなく30万台作れ!! 残ったらワシが全部買うてやる!!」

経営者に求められる「センス」「判断力」と「飛び込む度胸」

松下幸之助の経営ノウハウを熟知している江口克彦氏が語る”松下経営の極意”。連載第3回は、いつの時代の経営者にも通ずる、成功するために必須な3つの経営能力についてです。
<<①「勝つ美学」に走り「勝ち方の美学」を忘れた平成経営者>>
<<②グローバル時代で生き残る3つの経営キーワード「変身」「コラボ」「駆逐艦」>>

松下幸之助

経営センスがあるかどうか

グローバル化を迎える時代では、経営者が柔軟に対応しなければならないということについては前回の稿(②グローバル時代で生き残る3つの経営キーワード「変身」「コラボ」「駆逐艦」)でお話しましたが、成功する経営者は、どのような時代でも基本的に3つの要件を備えているものです。それは「経営センス」「判断力」「飛び込む度胸」です。

最初の「経営センス」とは、突飛なアイデア力や円滑に事業を進める交渉術のことではありません。自分の信念や責任感があり、組織や人を統率する能力があるかどうかということです。また、多くの人の役に立ちたい、この目的を達成したい、何が起きても、どんな状況になってもブレない。こうした思いを常に持っているかどうかです。これは、一面、持って生まれたものだと言えるかもしれません。こうしたセンスを持っていない人が経営者になると、大変苦労し、また結局は事業に失敗するということになります。

判断力が求められる

経営者は常に、右に行くか、左に行くか、社運をかけた重要な決断を迫られる場面に出くわします。ですから、こうした局面での「判断力」もまた、成功する経営者にとって重要な能力といえます。

では、判断する基準はなにか。それは、「どうしたら儲かるか」「どうすれば売上が伸びるか」といったことではなく、「これは人々のためになるか」「世の中のためになるか」「お客様は喜んでくれるのか」といったことを考えて判断しなければなりません。

よくコンプライアンス(Compliance 法令順守)が重要だと言われますが、より重要なことはヒューマライアンス(Humaliance 人間順守)です。「合法的で、法律に適(かな)っているから何をしても良い」と考えるのではなく、「人間性に照らしてどうか」「人間大事に適っているか」という基準で判断できる能力があるかどうかということです。

私はPHP研究所の経営者として、原則的には現代小説を出しませんでした。例外的に歴史小説は取り扱いましたが、濡れ場のような描写があるものは全てお断りしました。松下幸之助さんから、「興味本位の、そのような描写のあるものは出版するな」と指示されていましたので、私なりに、時代小説といえども、自分なりの基準をもって、そのときそのときに判断していました。

坂東眞理子さんの『女性の品格』を出版したのは2006年です。当時は女性の社会進出に対する議論が、今ほど盛んではなかったのですが、これから必ず女性が社会進出する時代が来ると感じていました。ですから、「この本を出しても売れないのではないか」といった指摘がある中で、「これからの時代を考えれば、絶対に多くの女性に読んでもらう必要がある」と判断しました。「売れる、売れない」ではなく、「女性の皆さんに必要だ」「女性の方々に読んでいただきたい」という判断から出版した結果、ベストセラー作品が生まれたのです。

経営者に必要な究極の要件は、度胸

経営者には、自身の持つ明確な指針に基づき、冷静な判断を下すことが求められます。しかし、新しいことにチャレンジするのにはそれ相応の勇気がいります。いわば、「未知の世界」に飛び込むわけですから、怖い。怖いけれども、飛び込む。そこで必要になるのが「飛び込む度胸」だということです。

松下幸之助さんも、外見は非常にソフトに見えましたが、非常に度胸のある人でした。例えば、ある事業場が、電気コタツをつくったことがありました。その責任者が松下さんのところに商品の説明に来た。松下さんは大層気に入り、「ところで、これ、何台生産するつもりや」と問いました。

数字は正確ではありませんが、確かその責任者は「とりあえずは3000台を予定しています」と答えました。すると松下さんはこう言ったのです。

「30万台つくれや。売れ残ったら、みんなワシが買うてやる!」

「これは売れる」と判断したならば、そこで一気に勝負に出る。凄いなあと、私は傍で見ていて思いました。まさに度胸ですね。結果的にこの商品は30万台どころか100万台以上売れて、マーケットを席巻しました。もしもその責任者の言う、少ない台数から販売するという、「段階を踏んだ戦略」に出ていたら、同業他社に先を越されていた可能性もあります。

失敗したら大赤字ですから、とても勇気のいる決断です。もちろん松下幸之助さんには緻密な計算や分析、経験に裏打ちされた基準があったのだろうとは思いますが、やはり、度胸でしょうね。なるほど、経営者には、このような度胸というものが必要なのかと思い知らされた場面でした。

経営者は自問自答せよ

繰り返しますが、経営者には「経営センス」や「判断力」に加え、「度胸」もまた必要な要件です。会社のトップ、経営者が、この3つの要件を持ち合わせているのであれば、会社は力強く発展し、ビジネスパーソンとしてとても幸せなことだと言えます。一方で経営者は、こうした要件が自分にあるかないか、自問自答する必要があります。もしも自分にはない、と思うならば、きっぱりと身を引いて、経営能力のある人に、その「椅子」を譲るほうが賢明と言えるかもしれません。

◇江口 克彦(えぐち・かつひこ)松下幸之助
1940年2月1日、名古屋市生まれ。松下電器産業入社後、PHP総合研究所へ異動。松下幸之助の側近として23年間過ごした。2004年に同研究所社長に就任し、09年に退任。10年から参議院議員を1期務めた。松下に関する著書が多数あり、講演にも定評がある。

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