【中島豊】新時代の『人事部』について考えよう
本当に必要な「人事部」とは?
「わが社に人事部はいらない。人事はすべての人の責任であるべきだ」
このなかなかの名言はヒューレット・パッカード(HP)の共同創業者のデイブ・パッカードが遺したものです。実際に1938年の創業からほぼ20年間、HPには人事部がなく、その間は、経営者と現場のマネジャーが、手作り感覚で「人事部の仕事」を仕切っていたのだといいます。
まず、人事部という存在が「企業」や「組織」に絶対的に必要かというと「そうでもない」ということを最初に確認しておきましょう。
しかし、20世紀の半ばに社員が1,000人規模になると、このHPにさえも人事部が置かれるようになります。現在、企業の人事部は「優秀」な人材を見いだし、採用し、さらには育成する役割を担う「経営のパートナー」として、企業にとって欠かせない存在(と思われているようです)。
ここで一般に、企業の戦略実行に必要なポイントとは、次の4点に集約されます。
①企業の置かれている環境変化を認識する。
②変化に対応する戦略を策定する。
③策定した戦略を遂行する組織態勢を整える。
④実行する人材を確保して育成する。
さて、高度成長期以降の日本企業では、人事部はこの中の③と④を担当してきました。
①、②について経営陣が決めたものを、正確に高度に③、④に反映させる役目です。
高度成長期の日本企業の「人事部」の仕事というのは、具体的には、右肩あがりの成長経済という背景のもと、社員に対して勤続年数に応じた「処遇」を用意し、そのためのポストを確保するような「組織作り」を行い、その組織を機能させるために、上司の指示に忠実に従って「滅私奉公も厭わない」、勤勉で一所懸命を美德とする均一な人材を、採用・育成した上で「現場」に配置してきたのです。
こうした「人事部」の働きによって、中央集権的で効率の良い、つよい組織態勢を持った日本の企業は、1980年代にグローバルレベルでも認められるような収益を上げ、黄金期を迎えることができたのです。繰り返しますが、高度成長期という環境に最適化した組織づくりを日本の「人事部」は行ってきたのです。
ところが、日本でバブル経済が崩壊した1990年代、世界は「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる時代を迎えます。VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つの単語の頭文字を組み合わせた、現代の「変化の激しい環境」を表現するキーワードです。