【machimori代表 市来広一郎】なぜ熱海を復活させることができたのか?

エリアに「点」を打つmachimoriの手法

民間の小さな一企業が街の再生を手掛けるにはどうすればいいのか。市来代表が実践したのは「エリアを変える点を打つ」こと。すなわち、魅力ある事業を成功例として示せれば、エリアの中で次第に波及する、という意味だ。

シャッター街をリノベーションで再生することを目指した市来代表は、その第一弾として空き家をリフォームしたカフェを熱海銀座商店街の中心部に開き、まず”点”を打った。商店街を活性化させるイベントも定期的に開催し、空きビルの管理や転貸しなど事業を拡大させながら新しいプレイヤーを巻き込んでいった。すると同じように古くなった店を改装し、リニューアルオープンさせる店が現れるようになった。

商店街の再生に向けた機運が高まると、成果も如実に現れた。旅館、ホテルの宿泊客数は11年以降急増し、15年には308万人と13年ぶりに300万人を突破。熱海銀座商店街の空き家も残すところあと2軒(2018年8月現在)となり、地価も下げ止まった。歴史ある町並みやレトロな老舗は残しつつ、リノベーションで若者を呼び込む施策が見事にハマっている。

ただ、本質的な街の再生を目指す市来代表に慢心はない。「観光客数は我々が重視しているところではありません。エリアの人口が増え、雇用が生まれ、所得が上がっていくことが重要です。まだまだ、まちづくりのスタートラインにようやく立ったところです」

「地方創生」には民間のスピード感が必須

「地方創生」や「地域再生」は、行政やNPOが取り組むべき案件だと思われがちだ。市来代表にも政治家を目指す道やNPOとして活動していく選択肢は当然ながらあった。だがあえて「民間」で挑むことにしたのには理由がある。

「行政だと担当者が頻繁に入れ替わってしまうし、周囲の色んな意見に耳を傾けなければならない。補助金に頼りなNPOでは、行政によって事業が制約されてしまいます。でも民間なら成功しようが失敗しようが、一貫してやり続けられる。スピード感を持って意思決定していくことが大切で、民間なら経営陣の意思決定一つで軌道修正もできる。何よりまちづくりや観光は『稼ぐ』ことが重要な分野なので、民間が主導権を握るべきだと思います」

とはいえ、目立った人脈も行政とのパイプも持たない個人が、街の再生という壮大な課題にチャレンジすることは容易ではない。実際、古くからの地主や商店街の店主の中には、市来代表の取り組みを快く思わなかった人も少なくない。「どこの馬の骨とも分からないやつが」と頭ごなしに活動を否定されたこともある。

それでも「誰のための活動だ。このエリアで事業を起こし、新たなプレイヤーとなってくれる人が入ってこないと、何も変わらない」と言い聞かせ、批判に耐えた。懇切丁寧に説明に出向き、頭も下げた。街に活気が戻り始めると、次第に否定する人はいなくなっていった。

復活した熱海が地方創生のメルクマールに

近年では「地方創生」の成功例として挙げられることも多い熱海。市来代表に助言を求める声も頻繁に集まるが、多くの自治体で抱えている悩みがプレイヤー不足だと言う。

「自分のように、会社を辞めてまで何かを始めようという人はなかなかいないかもしれない。でも、何人かで集まって会社を起こせば、リスクも少なく済むし、会社員や自営業を続けながらだってできる。同じ志を持つ仲間を見つけるのは大変かもしれませんが、街を歩けば必ず出会えるはず。『何とかしよう』という心意気のある人がいるうちは、その街には再生できる可能性があるはずです」

「街づくりは会社の経営と同じ」というのが市来代表の持論だ。人口減少や高齢化率の上昇に歯止めがかからない熱海市全体に目を向ければ、経営者としても街づくりの担い手としても依然として課題は多い。「たとえ日本が滅びても、熱海だけは生き残っていけるような、自立した街にしたい。100年後も豊かな暮らしができる街になるまで頑張っていきたい」。この思いが実現したとき、熱海は地方創生のメルクマールとなるかもしれない。

◆市来 広一郎(いちき・こういちろう)熱海 地方創生 市来
1979年、静岡県熱海市生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)大学院理学研究科(物理学)終了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に勤務。2007年に熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。11年に民間まちづくり会社machimoriを設立。著書に「熱海の奇跡 いかにして活気を取り戻したのか」(東洋経済新報社)。

photo by Hiromitsu Kiyose

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