「バセイを助くる力声(ちからごえ)手綱さばきも鮮やかに乗り出だしたるその有様は」。長文でも息継ぎはなし。手元の机を張り扇で叩く「パン、パン」という音がリズムよく響く。軍記物や政談などの史実を、あたかもその目で見たかのように話す。ジョークを交え、笑いもしばしば起こす。「講談」は、400年以上も日本人に愛されている伝統芸能だ。若者や女性に人気の「落語」に負けじと、講談も今、明治末期以来100年ぶりのブームを迎えている。
人気の理由は女性活躍
講談人気の理由の一つが、女性演者の活躍だ。後継者不足が課題の他の伝統芸能と同様、講談も一時期は衰退の一途を辿った。昭和40年代前半には、講談師は20数人にまで減少し、絶滅の危機とすら言われた。それを救ったのが女性演者だ。長らく男性が演じてきた講談だが、女性に向いている新作が次々に登場すると、女性講談師もしだいに増加。現在は全国で80人以上いる講談師のうち、半数以上が女性を占める。
平成26年(2014年)に真打に昇進した神田京子さん(41)もその一人だ。アナウンサーを目指していた大学時代に講談が衰退している現実を知り、「いいものが廃れていくのを目の前で見逃すのがすごく嫌だった。私が入門すれば、生きている間は続くと思った」。在学中に二代目神田山陽さんの門をたたき、山陽さんが亡くなった後は神田陽子さんに師事した。
講談の魅力を「題材のほとんどが弱者の味方。紆余曲折を経て出世していくストーリー等がスカッとする」と語る京子さん。2年前に長男を出産し、現在は育児をしながら、全国各地で寄席以外も含めて年間200本以上の講演をこなしている。京子さんは「講談の題材でもわかる通り、どこにもやり場のない気持ちを抱えている人は昔から多い。モヤモヤした気持ちを抱えている人には、講談の登場人物に自身を重ね合わせてリフレッシュし、元気になってほしいですね」と呼びかけている。
◆神田京子(かんだ・きょうこ)
岐阜県美濃市出身。日本講談協会、落語芸術協会所属。日本大学芸術学部在学中に最晩年の二代目神田山陽(かんだ・さんよう)に入門。二代目山陽他界後、神田陽子(かんだ・ようこ)に師事。平成26年に真打に昇進した。41歳。