「5万円PC」ネットブック市場を席巻した台湾企業「エイサー」の日本戦略

世の中のヒット商品や人気サービスには、「売れている理由」が必ず存在します。それは、今も昔も、未来であっても決して変わることではありません。新たなヒット商品を生み出すには、過去の成功例からヒントを貰うことが重要なのです。そこで、PRの専門家として「宣伝会議」のWeb広報講座の講師も務める砂流恵介が、パソコン製造会社「日本エイサー」の事例を基に、「なぜ、どうやって売れたのか」を徹底分析しました。大手と比べて予算が限られる中、ミニPCネットブックの流行に火をつけ、〝漫画に特化した″タブレットを世に広めたエイサーのテクニックをご紹介します。(ゲリラPR活動家 砂流恵介)

エイサー 砂流恵介

■ネットブック競争を制した台湾2社

小型で持ち運びがしやすいミニPCとして登場したネットブックは、国内では2008~09年頃に大ヒットしました。当時はスマートフォンやタブレットこそまだ普及していませんでしたが、SNSが爆発的に需要を伸ばしていました。

PCとしての性能は高くないけれど、インターネットをサクサク利用でき、特にSNSユーザーには使い勝手が良かったネットブック。持ち運びができるノートPCの価格は15万円以上するのが当たり前な時代でしたから、5万円前後で手に入る圧倒的な安さもブームを後押ししました。

そんなネットブックには、NECを始め、富士通、Dell、HPなど国内外のPCメーカーが当然のごとく参入してきました。その中で、売上規模でも認知率でもネットブックというカテゴリーの競争を制したのは、「ASUS」と「エイサー」の2社であると言えます。どちらも当時、あまり名前が知られていなかった台湾企業です。ではなぜその両社が、日本国内で‶代表選手″になれたのでしょうか?

■カテゴリー全体をPRして‶代表選手″に

最初にネットブックを世に出した‶先行者″はASUSでした。ASUSはその後もコンスタントに製品を投入し、‶先行者利益″と‶開拓者利益″で文句なしの代表選手になりました。エイサーは2番目に製品を出しました。多少の‶先行者利益″はもちろんありましたが、ASUSほどではないし、日本国内での認知度はまだ低く、後発の大手国内メーカーと比べてお客様の信頼も得られていませんでした。

そんなエイサーがネットブックというカテゴリーで‶代表選手″の地位を確立できたのは、世の中の関心をネットブックに向けてもらい、ブームとして終わらせない活動を積極的に行ったことが大きいです。つまり、ネットブックというカテゴリー全体の需要を広めることに注力したのです。「ネットブックが売れている」という情報をメディアに売り込み、特集記事を組んでもらったこともありました。自社の製品をPRすることに目が行きがちですが、エイサーでは「ネットブック」というカテゴリー全体のPRに力を入れたのです。

■ネットブック一点集中で勝負

業界全体で言えば知名度が低いエイサーです。ネットブックが人気になったとしても、一歩間違えば他社製品のPRを後押しすることになりますから、シェアを奪われてしまえば本末転倒です。それでもエイサーは、他のPCカテゴリーは捨て、ネットブック一点集中で挑みました。需要が重なるノートPCも手掛けている他社は、そこまでネットブックに注力しないだろうという読みもありました。「持ち運べるPCを安く買える」と顧客満足度が非常に高かったネットブックで勝負に出たのです。

主力製品の「Aspire One」には莫大な広告費を掛け、エイサーとして初めてテレビCMを流しました。「PCは5万円で買う時代」という挑戦的なメッセージ広告も、ネットブックを消費者に認知させるきっかけになったと思います。ネットブックが浸透していくと、本体の表面にデコレーションを施した「デコパソ」を展開するなど、カテゴリー全体の定着も図りました。

エイサー 砂流恵介

ネットブックは所詮、PCの1カテゴリーでしかありません。特に大手企業からすると、約5万円と低価格なこの商品よりも、ノートPCなど他の高額な商品の販売に力を入れた方が当然、儲けはいいのです。ですから、ネットブックにそこまで注力した企業はありませんでした。むしろネットブックには後ろ向きで、各社に遅れを取らないように仕方なく製品を投入している企業が多かったような印象さえあります。

でも、エイサーにとっては日本でシェアを伸ばす大きなチャンスでした。安価なネットブックへの一点集中はある種の賭けではありましたが、ネットブック自体が大きく注目を浴びることになり、結果として、エイサーの認知度を高めることに成功しました。間もなくタブレットやスマートフォンが登場し、ネットブックは市場から姿を消してしまいました。しかし、エイサーの会社としての信頼や認知度が上がったお陰で、他のPCカテゴリーでも見事に売上が伸びました。

時流を上手く捉えたネットブックという製品が魅力的であったことは間違いありませんが、そこに目を付けたエイサーは、カテゴリー全体を背負い、地位を確立させた好例と言えるでしょう。

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