【松下幸之助】「勝つ美学」に走り「勝ち方の美学」を忘れた平成経営者

東芝、三菱自…「成果主義経営」が大手企業もダメにした

米国的経営の流入

こうした背景には、「米国的経営」の流入があると思います。日本国民が豊かになったということと同時に、昭和の経営者は事業を発展させていく過程で、自分の息子や若い人たちを米国に留学させました。大学もさかんに留学を勧めました。留学した人たちは、米国でハーバードビジネススクールのような所に通い、PHDやMBAといった肩書を持って、平成になった頃に戻ってきました。そういう人たちが経営者になって、「米国的経営」というものを、そのまま持ち込んでしまったのです。ここで言う「米国的経営」とは、成果主義やリストラクチャリング、能力主義のことです。

ところがそれは日本の経営風土には合わない。明恵上人から鈴木正三、石田梅岩、渋沢栄一、そして松下幸之助に流れる「日本的経営」の系譜では、「世のため、人のため」というような心が根底にあります。自分の人間的成長とともに、世の中に貢献する、ということが貫かれているのです。しかし、米国的経営というのは、極端に言えば「自分だけが良ければいい」という考えです。

経営者は自分の任期中に利益が上がっていなかったら、クビになるか給料がガタンと減ってしまいます。その代わり利益を上げたとなれば、従業員の給料の50倍でも100倍でも平気で取っていく。トヨタと日産を例に挙げましょう。売上、利益で言えばトヨタは日産よりはるかに高い。ところがカルロス・ゴーンさんは、豊田章男さんの年収よりはるかに高い十数億円を手にしている。カルロス・ゴーンさんは欧米的な経営ですから、「成果を上げたのは俺の手柄だ」という成果主義なのです。

成果主義の弊害

そうすると段々、「成果さえ挙げればやり方はどうでもいい」ということになってくる。「勝てば官軍」、やり方はどうでもいい。だから人を騙したりごまかしたりしてもいい。その結果が、三菱自動車のデータ不正事件であり、東芝の不正会計事件です。こうした不祥事や事件が平成に入ってたくさん出てきた。成果や結果を出せばいい。ごまかしても、社会やお客さんにわからなければいい。自分の会社が無事に過ごせれば、自分の立場を維持できるだけでなく、高額な給料、報酬を貰えるんだ、という考え方になってしまった。

成果主義というのは聞こえは良いようですが、「勝ち方の美学」というのを忘れ、「勝つ美学」だけを追いかけてしまうということです。だから不正事件やデータ改ざん事件がどんどん起こって来るし、最近の「モリカケ」のような問題も起こるのです。城山三郎さんの小説『官僚たちの夏』を読めば分かりますが、昔は官僚も、国家国民のためにという意識、プライドがあったものです。

「リストラクチャリング」という言葉も、日本では平成になってからさかんに聞くようになりました。直訳すれば「機構改革」という意味になりますが、日本ではリストラというと従業員のクビ切りという意味ですね。私はPHPの社長をやっていたとき、社員の給料は一銭も下げずに、合理化、効率化を図って利益を出しました。ところが、社員の犠牲を考えなければ、利益を上げるのに一番手っ取り早い方法は、人件費の削減です。

1990年代に入り、バブルが崩壊すると日本は「空白の20年間」と言われる時代を迎えますが、その頃、米国に留学し、「成果主義」を掲げる人が次々に経営者になっていく。しかし経営はどんどん上手くいかなくなった。自分のことだけを考えるのが成果主義ですから、経営者は経営者の業績だけを考える。そこで、欧米式経営でいう「リストラクチャリング」で従業員のクビ切りを行いました。電話一本、紙切れ一枚で利益を上げられますからね。それをそのまま真似てしまった。だから、日本のビジネスマンはやる気を失ってしまったのです。

松下幸之助さんの時代、昭和の時代では、いわゆる一流の大企業から不良品が出ることなんて滅多になかった。今では当たり前のように不良品が出て、すぐにリコールも起こる。はっきり言って、経営者に使命感がないからです。経営者に使命感がなければ、社員だって使命感がありません。売上が伸びて、利益が上がればいい、という経営者が多い。そういうことではやっぱりいけない。「勝つ美学」も大事だが、「勝ち方の美学」も大事なんだということに、若い経営者の人たちが気付いてくれることを、私は願っています。

◆江口克彦(えぐち・かつひこ)松下幸之助 流
1940年2月1日、名古屋市生まれ。松下電器産業入社後、PHP総合研究所へ異動。松下幸之助の側近として23年間過ごした。2004年に同研究所社長に就任し、09年に退任。10年から参議院議員を1期務めた。松下に関する著書が多数あり、講演にも定評がある。

<<松下幸之助流『勝てる経営、負ける経営②>>

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