人工知能(AI)やIoT、ロボットの活用は、猛スピードで変化していく現代社会を生き抜く上で避けては通れない。この荒波を乗り越えられない企業は淘汰され、上手く乗りこなすことができた企業だけが厳しい競争を勝ち抜けると言っても過言ではない。技術大国・ニッポンが世界に誇る自動車産業も例外ではなく、電気自動車(EV)、自動運転車、ライドシェアリングと、次々に変革が起きている。戦国時代に突入したクルマの未来はいかに。(Soysauce Magazine Online編集部)
100年に一度の変革期
初めて訪れた異国の地。見たこともない景色に不安と期待が入り混じる中、颯爽と走るトヨタや日産のクルマを見ると、なぜか誇らしい気持ちになる――。日本人であることを再確認できるこんな瞬間が将来、少なくなってしまうかもしれない。自動車産業は今、「100年に一度の変革期」とも言われる大きな岐路に立たされている。
一番の要因は、あらゆる産業の未来を語る上で欠かせないキーワードとなっている「AI」の登場だ。蒸気機関による自動化の「第1次産業革命」、電気エネルギーによる大量生産の「第2次産業革命」、コンピューターによる自動化の「第3次産業革命」を経て迎えた現代の「第4次産業革命」は、AIやIoT、ロボットなどのイノベーションによる社会システム全般の変革期と言われている。
では自動車産業は、AIによって何がどう変わるのだろうか。元経済産業省の官僚で専修大学経済学部の中村吉明教授(産業論、産業政策論)は「AIやIoTは自動車産業にとっても大きなムーブメント。企業が大幅に変わり、自動車産業全体が変わり、さらには社会構造まで変わる」とした上で、こう警鐘を鳴らす。「日本の企業は、自分たちが変わらなければならないという危機意識が少ない」
EVで後手の日本メーカー
環境問題への関心の高まりなどを背景に、自動車メーカー各社はEVや燃料電池車(FCV)の開発を競い合っている。今や世界最大の自動車市場を持つ中国では昨年、ガソリンなどを燃料にする化石燃料車の生産・販売を将来的に禁止する政府の方針が決まった。イギリスとフランスも2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する政策を打ち出している。環境に優しいエコカーの開発を国が支援する流れは止まらず、自動車メーカーにとってEVやFCVなどのエコカーへのシフトはもはや既定路線と言える。だが、残念ながら、ガソリンエンジン車で実績を積み上げてきたトヨタなどの日本のメーカーは、EVで後手に回っている現状がある。トヨタなどが注力しているFCVも車両価格や水素インフラ整備がネックになり、普及していない。
こうした背景に加え、クルマは今、インターネットに接続する機器を備えた「コネクテッドカー」へと主流が変わりつつある。盗難車両を検知したり、スマートフォンでドアロック解除が簡単に行えるようになったりするだけでなく、AIやIoTの活用が急速に進んだことで、自動運転車の実用化に向けた動きも一気に加速している。検索大手のグーグルやEVメーカーのテスラ、自動車のシェアリングサービスで注目を浴びているウーバーテクノロジーズなどの海外の新興企業は、自動運転車の開発、実用化で激しい競争を繰り広げている。
マイクロソフトや半導体メーカーのエヌビディアなども次々に自動車メーカーと提携を組んでいる。もはや、ガソリンエンジンを動力として人間が運転するものだったクルマの時代は終わった。トヨタを始めとした既存の自動車メーカーにとっても、自社にないAIやIoTの技術を活用することは必要不可欠となっている。トヨタは今年3月、AIなど自動運転技術を開発する新会社をデンソー、アイシン精機と共同で設立した。20年に高速道路での自動運転技術を実用化し、20年代前半には一般道にも広げる計画を立てている。日産も3月、DeNAと共同で自動運転車の公道での実証実験を行った。
ただ、ガソリンエンジン車で世界的に「勝っている」日本のメーカーにとっては、それを投げうってエコカーや自動運転車に完全に傾斜することは現実的ではない。既存の商品の改良ばかりに目が行き、顧客の新しいニーズに目が届かない、いわゆる「イノベーションのジレンマ」に近い思考が働くのにも頷ける。中村教授は「トヨタや日産も一生懸命新たなトライをしているが、それ以上に時代の流れが速すぎる。グーグルなどは、倍速で先を行っている」と見ている。