いまやフルタイムでバリバリ働く「キャリアウーマン」は珍しくなくなった。社内で出世を目指すだけでなく、自ら起業する道を選ぶ女性も少なくない。労働人口の減少が進む中、女性活躍社会の実現は日本経済の発展に不可欠だ。日本最大級の女性社長の会合「エメラルド倶楽部」の菅原智美代表理事が語る、「勝てる女性社長」の思考とは?(Soysauce Magazine Online編集部)
「消費の8割」を女性が握っている現実
――エメラルド倶楽部は設立から10年目を迎え、現在約1200人の会員がいます。菅原代表がこの会を立ち上げた経緯を教えてください。
「起業1年目に経営者の会合で勉強していたのですが、女性の起業家がすごく少なかった。100人ほどのセミナーでも2、3人しかいない。すごく衝撃を受けました。当時は女性の起業には否定的な意見が多かったのですが、家庭も事業も成功している女性社長は絶対にいるはずで、そういう人から話を聞きたかった。そこでまずは女性起業家向けの勉強会を開いたのが始まりでした」
――発足当初の活動はいかがでしたか。
「最初は10人程度で勉強会を重ねていましたが、次第に参加者が知人を連れてくるようになり、20~30人ほどが集まるようになりました。当時、私は『ダイヤモンド経営者倶楽部』に入っていましたが、男性ばかり。これの女性版というイメージで、女王の石とされるエメラルドからとって『エメラルド倶楽部』と名付けました」
――やはり女性の起業には否定的な意見が多かったのですね。
「『女なんだから止めたほうがいい』『結婚して主婦になればいい』といったことを男性からよく言われました。でも、世の中の消費の8割は女性が握っていると言われています。それなのに、その消費を作る人、サービスを提供する人が男性だけなんて絶対におかしい。だから、女性が活躍すれば、もっと経済全体が活性化されるはずだと思いました」
女性社長だからこそできる「子育て」との両立
――最近では女性社長は珍しくなくなってきましたが、女性であることのメリットやデメリットを感じることはありますか。
「私は苦労よりも得している部分の方が多いと感じます。男性と同じことをやっていても、女性だからという理由で、いいのか悪いのかはわかりませんけど、余計に目立つ。お陰でメディアに取り上げられたり、紹介されたりすることも多いです」
――女性が活躍しやすい社会になってきたのですね。
「そうですね。ただ、まだまだ女性であることの難点を感じることもあります。例えば、大手企業や金融機関の信用という意味では、社長が女性だからという理由で引っかかってしまうこともあります。エメラルド倶楽部の会員さんで、男性社長から引き継いで代表になったときに、『社長が女性に代わるなら融資を止める』と言われた方もいます。また、大手企業との取引で、女性一人で行くと取引してもらえないけど、年配男性の顧問を連れていくとあっさり契約できた、という話もありました。今でも『女性では結婚や出産で事業が続かない』という印象があるようです」
――女性社長は、やはり子育てや家庭との両立が課題になりそうです。
「実はそんなことはありません。たとえば子供が病気になった時、会社員だと早退するのにも周りの冷たい視線を感じることがありますが、自分が社長だったら、『今日は子供が熱を出したから帰るけど、あと頼むね』と気軽に言えてしまう。それに、女性社長の会社は圧倒的に女性スタッフの割合が多いので、主婦を雇用していたり、子連れ出勤を認めていたり、タイムシェア的な勤務にしていたりと、融通も効く。女性社長が増えることは、働く女性が増えることにもつながると思います」
女性社長が「勝つ」ためには
――エメラルド倶楽部は定期的に海外で視察を行っていますが、日本は他国と比べて女性が活躍する社会への意識は進んでいるのでしょうか。
「残念ながら遅れていると思います。主に欧米やアジアで視察を進めていますが、特に進んでいるのはモンゴルですね。モンゴルは経営者の半分近くが女性です。企業の管理職にも女性が多い。男性が家でご飯を作って子育てしているのも普通です。社長が女性で、旦那さんが運転手や経理をやっていることもあります。日本のように、『女が家のことをする』という考えがないのです」
――女性活躍社会を実現する上で、これから大切になるのはどんなことでしょうか。
「数字上は女性社長も増えてきましたが、今はまだ、成功者や見本となる人が少ない。名前が挙がるのも、桜ゴルフの佐川(八重子)さんやDeNAの南場(智子)さんら、限られた人しかいません。企業の管理職に就く女性もまだ少なく、会社員時代のマネジメント経験が少ないから、起業に踏み切るのも難しいのだと思います。男性の理解も不可欠ですが、楽しく生き生きして、みんながかっこいいなと思える女性社長が増えていけばいいと思います」
◇一般社団法人エメラルド倶楽部
女性経営者の活躍する社会の創造を目的に、2009年に設立された。東京都新宿区の本社を拠点に、東北、関西、中部など各地に支部を持つ。月1回の交流会や上場企業経営者を招いたセミナーのほか、アジアを中心に海外視察も行っている。
◇菅原 智美(すがはら・ともみ)
1970年生まれ。リクルートや携帯電話会社などでの勤務を経て、2007年6月に貸会議室、セミナールームを運営する株式会社NATULUCKを設立、同代表取締役に就任。09年に女性起業家の育成を目的とした一般社団法人エメラルド倶楽部を設立し、代表理事に就いた。